ラットにも存在した「偏見」と「差別」
実験用ラットに「仲間を助け他人を見捨てる」という現象が知られるようになったのは、今から10年前になります。
ラットにも相手によって助けたり助けなかったりするという「偏見」や「差別」に似た行動が存在するという事実は、多くの人々に複雑な思いを引き起こしました。
一方、近年の神経科学の進歩により、動物の行動が特定の神経回路の存在と密接に関わっていることが明らかになってきました。
恐怖、快楽、痛み、そして苦しみなどにかかわる行動や感情が起こるとき、動物の脳では、それぞれに対応した神経回路が活性化されます。
そこで今回、イスラエルのテルアビブ大学の研究者たちは、ラットの「仲間を助け他人を見捨てる」という現象の根底にある、いわば「差別」と「偏見」の源泉となる神経回路の特定を試みました。
実験にあたって研究者たちはまず、上の図のようなラットを閉じ込めて苦しめる装置を作りました。
閉じ込められたラットは決して自力で脱出することができませんが、外部にある鍵を別のラットが操作することで扉を開き「助ける」ことができます。
次に研究者たちは、この拷問装置に囚われたラットのいるケージに、自由に動き回れる、親しい仲間のラットと見知らぬ他人のラットを入れて、様子を観察しました。
結果は予想通り、苦しんでいるラットが親しい仲間の場合、自由なラットは拷問装置を積極的に探索して解除方法を見つけ出し、助け出しました。
一方、苦しんでいるラットが見知らぬ他人である場合、ほとんどが見捨てられました。
拷問装置が予定通りの成果を上げたことを確認した研究者たちは、いよいよ次の段階に進みます。
同じ実験を、今度は脳を直接観察しながら行い、助けた時と見捨てた時に、どんな神経回路が働いているかを確かめたのです。