結果的に見捨てた…が、実は「かわいそう」だとは思っていた
仲間を助け他人を見捨てるとき、ラットの脳では何が起きているのか?
謎を解明するため、研究者たちはまず、仲間を助けたラットと他人を見捨てたラットの双方の脳で、活性化している回路を探しました。
脳科学の進歩によって、脳細胞の活性度に依存して放出量を増やす尺度となるタンパク質(c-Fos)が次々に発見されています。
このタンパク質(c-Fos)が脳の何処で増えているかを調べることで、特定の行動と結びついている回路の位置を調べることが可能になります。
そこで研究者たちは、仲間を助けたラットと他人を見捨てたラットの脳を素早く摘出してスライスし、活性化している回路(c-Fosが多い細胞)を探しました。
結果、仲間を助けたラットと他人を見捨てたラットの双方で共感にかかわる回路が同程度まで活性化していたことが判明します。
つまり、苦しんでいる相手が仲間でも他人でも、ラットはとりあえず「かわいそう」「苦しそう」とは思っていた、ということになります。
ですが、実際に苦しんでいる仲間を助ける行動に出たラットでは、共感の回路に加えて、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質などによって起動する、側坐核を中心にした快楽の回路(報酬系)が活発に活動していることがわかりました。
またカルシウムイオン濃度を元に、リアルタイムで脳活動を測定すると、閉じていた扉が開いた瞬間(助け出した瞬間)に最も激しい変化(快感の発生)が起きていました。
つまり、仲間を助けるという行動にラットは強い快感を感じていたのです。
報酬系がもたらす快楽は、あらゆる動物の行動に動機を与えることが知られています。
強い社会性を持つことが知られているラットでは、仲間を助けることに快楽を感じるように脳が配線されていたようです。