触らず物を持ち上げる「音響ピンセット」
物体に触れることなく自由に動かす。
それはまるで念力のように聞こえますが、波の干渉を利用して粒子を掴むという技術は以前から研究されています。
特に研究が進められているのは光波を使った「光ピンセット」で、これはマイクロメートルサイズの非常に小さな粒子を掴むことができます。
2018年にノーベル物理学賞を受賞したアーサー・アシュキン氏は、この技術に関連する研究成果が認められたことが大きく貢献しています。
ただ、光を使った技術にはいろいろと制約があるのも事実です。
そこで、光の代わりに注目されているのが音波を使った「音響ピンセット」という技術です。
Credit:SciTech Daily,Tweezers of Sound: Acoustic Manipulation off a Reflective Surface/Tokyo Metropolitan University
音波は光よりも幅広い物体や材料に適用でき、ミリメートルサイズの粒子まで掴むことができます。
子どもの頃、太鼓の上に発泡スチロールの小さなビーズなどを置いて太鼓を叩くと、ビーズが浮き上がるという理科実験をしたことがあると思います。
これは音波という見えない圧力の存在を、子どもに理解させるための実験ですが、音響ピンセットはこうした音の圧力をもっと精密に制御することで実現しています。
しかし、こうした技術では、大量に並べられた超音波発振器をリアルタイムで正確に制御する必要があります。
特に音を反射してしまう表面に乗っている物体を持ち上げるということは非常に困難な試みでした。
新しい研究は、半球型に並べられた超音波トランスデューサを、個々に管理するのではなく、管理可能なブロックに分割して使用し、目的の位置に対して最適な音場を生成するとのこと。
この方法によって、今回の研究はこれまで困難だった音を反射しやすい剛性の台の上からでも、スチロールのポールを掴むことに成功したのです。
まだ、粒子を捕獲して安定させるという技術には課題が多いといいますが、今回の研究成果はその大きな進歩に貢献するでしょう。