落ち着いて眠れない環境
今回の研究は、必ずしも睡眠時間が生活のクオリティを向上させる要因ではないことを明らかにしています。
研究の発端は、MITの経済学者フランク・シルバッハ(Frank Schilbach)氏とその同僚たちがインド、チェンナイで行った別の研究でした。
ここではチェンナイの低所得者層の日常的な問題について調査を行っていましたが、その過程で彼らの多くが睡眠においても困難な環境を抱えていることがわかったのです。
「チェンナイでは、人力車の上で寝ている人をよく見かけます。
4,5人が騒がしい部屋で一緒に寝ていることも多く、高速道路脇の区画の間に寝ている人も見かけます。
夜になっても非常に暑く、蚊もたくさんいて睡眠を妨害するあらゆる有害な要因があるのです」
シルバッハ氏は、チェンナイの貧困層の状況をそのように語っています。
このような状況では人々の睡眠の質は非常に低いため、睡眠時間を増やしても睡眠のメリットは得られない可能性があるのではないか?
研究者たちはそのように考え、今回の睡眠時間の増加と睡眠の質に関するフィールド実験を行うことにしたのです。
研究チームは、チェンナイの住民の協力を得て、彼らにアクチグラフ(体の動きから睡眠状態を推測する腕時計型の装置)を装着してもらい、日常生活を送ってもらう中で、調査を行いました。
多くの睡眠研究では、実験室の環境で人々を観察するため、ここではより現実に即した結果を得ることが期待できます。
研究では、452人の人々を1カ月にわたって調査しました。
実験中は参加した人々に対して、よりよい睡眠をとるためのアドバイスを行い、またより多くの睡眠時間を確保できるよう金銭的な援助も行いました。
また、両グループの一部の人たちには、昼間に昼寝をしてもらい、その効果を調べました。
さらに、実験期間中、参加者には時間の融通がきくデータ入力の仕事を与えることで、睡眠時間と生産性や収入の影響を詳細に把握できるようにしました。
では、結果はどうなったのでしょうか?