カフェインはハチの記憶力を向上させる
マルハナバチは視力が非常に悪いので、自分たちにとって最適なエサとなる花を見つけるのには苦労しています。
1度出遭った花の蜜を再度探す場合、彼らは嗅覚など視力以外の手がかりに頼って花を探すのです。
これまでの実験で、カフェインを混ぜた花を与えると、マルハナバチは次もカフェインの混ざった花に寄ってくることは示されていました。
しかし、これは花の中にカフェインが入れられていたので、ハチがカフェインに惹かれているのか、それともカフェインを摂取したことでハチの記憶力が向上したのか、特定することはできていなかったのです。
そこで、今回の研究では、86匹のマルハナバチを3つのグループに分けカフェインの影響を調べる実験を行いました。
1つ目のグループにはイチゴの香りとカフェイン入りの糖液を与えました。
2つ目のグループには、イチゴの香りと糖蜜だけを与え、3つ目のグループには香りのない糖蜜だけを与えました。
そして、これらのハチを、すでに嗅いだことのあるイチゴの花と、まだ嗅いだことのない香りの花、2種類の置かれた実験場に放ったのです。
この実験では、イチゴの花の匂いと蜜の報酬との間に、肯定的な関連性を学習していなければ、ハチは実験場に用意された2種類の花に対して、どちらにも同じように寄っていくことになるはずです。
しかし、カフェインを摂取していたハチの70.4%が、イチゴの花を最初に訪れたのです。
一方カフェインなしでイチゴの香りと糖蜜を与えられたハチは60%、糖蜜だけだったハチは44.8%しか最初にイチゴの花を選びませんでした。
これは偶然では片付けられない差異です。
このことから、カフェインはマルハナバチに美味しい蜜のある花の香りを認識させ、それを記憶する能力を向上させていたと考えられるのです。
英国グリニッジ大学のサラ・アーノルド氏は「カフェインを与えると、ハチはやる気と効率が高まるようです」と話します。
カフェインを与えると巣の外でハチの活動が向上すると報告されたのは、これが初めてです。
さらにカフェインを与えられたハチは、運動能力も向上していて、一定時間内に花を訪れる回数も増加していました。
これはささやかな差だったといいますが、カフェインがハチの運動能力も向上させていた可能性が示唆されます。
ただ、こうした反応は最初だけで、花の好みは長く続かなかったようです。
しばらく経つと、ハチはイチゴの花にも別の花にもほぼ同じように訪れるようになりました。
「これは予想できたことです」とアーノルド氏は語ります。
「なぜならどちらの花からも同じように彼らにとってごちそうとなる蜜が手に入るからです」
ある意味、学習するのと同じ速度で、彼らは覚えたことを忘れていました。
しかし、今回の結果は、ハチを媒介にした農業に大きな影響を与えるだろうとアーノルド氏は述べます。
イチゴ農家では、植物の受粉にマルハナバチを使っています。
そのために農家は、毎年数十~数百箱分のマルハナバチを購入して放っていますが、ほとんどのハチは目的のイチゴに向かわず、近隣の野草へと向かっていってしまうのです。
しかし、カフェインで学習させたハチを使えば、こうした作業はずっと効率的に機能し、農家に費用に見合った価値を提供することができるでしょう。
マルハナバチの作業時にもカフェインが活躍するとなると、仕事中にコーヒーを飲むのは、やはりとても合理的な選択なのかもしれません。