感情が伴わなくても心拍数が同期する
教習所や研修で見せられる教育ビデオは、エンターテインメント作品と異なり基本的に視聴者の感情を揺さぶるようなポイントは存在しません。
今回の研究チームは、被験者たちにそんなビデオを視聴してもらい、そのときの心拍数も測定しました。
すると意外なことに、感情の変化が伴わないこのビデオでも、被験者たちの心拍数は依然として同期していたのです。
しかし、この同期は、同じ動画の2度目の視聴では崩れてしまいました。
これは、人の心拍数の同期が感情に関連しているのではなく、注意の度合いと関連している可能性を示唆しています。
3つ目の実験では、被験者ごとに静かな環境と気が散る環境で行った場合、心拍数の同期が取れていない被験者は、視聴した内容について確認するテストで、悪いスコアを出す傾向がありました。
最後に、研究チームは、健康な被験者と昏睡状態の患者を対象にオーディオブックを聞かせる実験を行いました。
当然ですがこの実験では、昏睡状態の患者は心拍数の同期率が非常に低い結果となりました。
ただ、応答性がもっとも高く、心拍同期率が比較的高かった昏睡状態の患者の中には、半年後にある程度意識を取り戻した人がいたのです。
研究の結果は、感情表現の伴わない教育ビデオでも、人々の心拍数が統計的に意味のある形で同期することがわかりました。
もちろん感情を揺さぶるシーンが、私たちの反応に影響を与えないわけではありません。
しかし、その場合、同じように心拍数が変動する必要はないのです。
このことから研究者は、人の心拍数の変動は、注意の度合い、内容にどれだけ引き込まれているかによって変動する可能性があると考えています。
さらに昏睡状態の患者であっても、心拍数の同期率に統計的な有意差が確認できた場合、その患者が後に意識を取り戻している点も興味深い結果です。
これは今回の発見が、心拍数の変化を測定することで、間接的に脳機能や意識を測定する技術の基礎となる可能性があることを示しています。
心拍数の測定は脳波の測定よりはるかに簡単で、スマートウォッチやフィットネスバンドのような簡単な機器にも搭載できる機能です。
ただ、研究者は今回の研究が非常に予備的なものである点を警告しています。
実験のサンプル数は非常に小規模で20~30人の被験者のみで構成されているため、今回の結果をより多くの人々で検証する必要があります。
しかし、私たちは同じものに触れたとき、同じように世界に反応し、何らかの共鳴を起こしているのかもしれません。
たとえ遠く離れていたとしても。