乗っ取りのメカニズムと予防策を発見
本研究では、ファイトプラズマが持つ「SAP05」というタンパク質の働きに注目して、植物の分子機構の一部を操る様子を観察しました。
ここでの植物の分子機構は、プロテアソームと呼ばれる巨大な酵素複合体のことです。
プロテアソームは通常、植物の細胞内で要らなくなったタンパク質を分解する役割を担います。
最初に、不要になったり、劣化したタンパク質にユビキチンという小さなタンパク質が付き(タグ付け)、それを標的としてプロテアソームが分解および再利用を進めます。
これは、植物が成長や寿命を制御するための重要なシステムです。
ところが、観察をする中で、SAP05がこのプロセスを乗っ取り、ファイトプラズマが繁殖しやすいように再プログラムされることが分かりました。

興味深いことに、SAP05は、植物細胞内のタンパク質とプロテアソームの両方に直接結合していました。
この直接結合は、これまでに知られていないタンパク質の分解方法です。
普通、プロテアソームで分解されるタンパク質は、あらかじめユビキチンでタグ付けされますが、SAP05はそのような中間段階を必要としません。
またチームは、SAP05の標的となる植物のタンパク質は、ファイトプラズマを媒介する昆虫に存在するタンパク質に似ていることに気づきました。
そこで、SAP05が昆虫にも悪影響を与えるかを実験したところ、昆虫のタンパク質は、SAP05が作用できない構造になっており、異常は起きませんでした。
さらにチームは、本調査の中で、SAP05との相互作用に必要な2つのアミノ酸の特定に成功しています。
これら2つのアミノ酸を植物のタンパク質と置き換えてみた結果、SAP05によるタンパク質の分解が抑止され、病気の発生を予防できたのです。
この発見は、遺伝子編集技術などを用いて、作物中に2つのアミノ酸を置換することで、ファイトプラズマやSAP05に対する耐久性が得られるかもしれません。