対立した値を同時に成立させる熱電材料
今回研究チームが発見したのは、「Ta2PdSe6」という結晶構造です。
この物質は2つの物質が層状に組み合わさっています。

物質の電気抵抗率は温度を下げるとだんだん下がっていきますが、この物質ではゼーベック係数が温度の低下とともに大きく上がっていきます。
下のグラフは、この物質の電気抵抗率とゼーベック係数の温度依存性です。

このグラフを見ると、電気抵抗率は20K(-253℃)付近で、10-6Ωcmという非常に低い値になります。
これは室温の単体金属に匹敵する非常に低い電気抵抗率です。
そしてゼーベック係数も、20K付近で40μV/Kという値になります。
どんな値かこちらはわかりづらいですが、これは室温の単体金属が示すゼーベック係数の数十倍の値です。

さらにこのグラフは、今回の物質と他の物質の室温(300K(27℃))におけるペルチェ伝導度と電気伝導度を示したものです。
右端にある黒天が、今回の物質の特性を示しています。グラフは右上に行けば行くほど特性が良いことを示します。
つまり、室温で比較しても、今回の物質は従来の物質の中でもっとも熱電物質として優れた特性を持っていることを意味しているのです。
しかし、その真価は氷点下260℃という低温で発揮されます。
このとき、この新しい物質は、たった体積1ccに1℃の温度差がついただけで、家庭用定格値の数倍となる100Aもの電流が生成されるのです。
これは既存の熱電物質では比較にならない能力で、これほど電流生成能力の高い物質は前例がないといいます。
この物質を利用すれば、小さな空間で物質に僅かな温度差を付けるだけで、大電流を供給することが可能になります。
コンパクトな強力電流源への道が拓かれたのです。
極低温で優れた特性を見せるこの物質は、例えば超電導コイルと組み合わせることで、大きな力を発揮し、医療や工学の分野の技術革新につながることが期待できます。