2つのメリット「波乗り」と「波渡し」を発見
研究チームは今回、子ガモが母親の後ろに並んで泳ぐ理由について、数学的・数値的モデルを用いて解明を試みました。
その結果、縦列フォーメーションにより子ガモが享受できる2つのメリットが明らかになっています。
1つは「波乗り(wave riding)」です。
まず、先頭の子ガモが母親の真後ろ(研究チームが「スイートポイント」と呼ぶ場所)を泳ぐとき、そこでは強い波の干渉が起きます。
物理学でいう干渉とは、2つ以上の波動が同一点でぶつかった時に、波の重ね合わせによって新しい波形ができる現象です。
そして、母ガモの真後ろでは、干渉によって強い波が生じ、子ガモが水を漕ぐときに抵抗として働く波の抗力が、プラス(正)の力に変換されていました。
要は、波乗りの状態になることで逆に推進力を得ていたのです。
もう1つのメリットは「波渡し(wave passing)」です。
興味深いことに、この波乗りのメリットは、列に並んでいる後続の子ガモたちにも伝わっていました。
最初の波が3羽目の子ガモに到達する頃には、波の抗力がゼロに近づき、動的平衡状態に入ります(上図の青線)。
この平衡状態にある各個体は、波のエネルギーを損失することなく後続の子ガモに伝える「波の渡し手」としての役割を果たしていました。
上図の赤曲線は、母ガモの後ろに生じる波形を示したもので、子ガモの間ではまったく変わっていないことが分かります。
研究主任のZhiming Yuan氏は、次のように述べています。
「この研究は、カモの編隊泳法が各個体のエネルギー消費を維持できる理由を明らかにした初めてのものです。
カモが母親の後ろに並んで泳ぐフォーメーションを発達させた理由は、おそらく波乗りと波渡しにあるのでしょう。
また、これらの原理は、余分な燃料費をかけずに、より多くの貨物を輸送することができる現代の貨物輸送船の設計に応用できる可能性があります」
これと別に、研究チームは、縦に並んで泳ぐことが、カモの原始的な本能である「刷り込み」と関係しているではないかと考えています。
刷り込みとは、卵から孵化したヒナが最初に目にしたものと親と認識する習性です。
刷り込みが行われると、そのヒナはずっとその親の後を付いて回るようになります。
これと同じように、水上で母親の後を付いて回るのも刷り込みと何か関係があるのかもしれません。