ミツバチの「ソーシャルディスタンス」を初確認
ミツバチの社会は、私たちと同様に、仕事の役割分担をしています。
また、その職業によって、巣内に占める位置も変わってきます。
コロニーによって多少の差はありますが、ほとんどの場合、2つの大きな区画に分かれています。
1つは、巣の外側を占める働きバチ(採餌係)で、コロニー内の年長者が務めます。
もう1つは、巣の中心部を占める女王バチやハチの子、それと子どもたちの世話係です。
基本的に、働きバチが中心部のコロニーと頻繁に接触することはありません。
女王や子どもはコロニー内でも大切な存在なので、働きバチが外から持ってきた病気をうつさないためです。
では、実際に病原菌がコロニー内に入ってきた場合は、どのような反応を見せるのでしょうか。
ミツバチをターゲットにする寄生ダニ
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL・英)とサッサリ大学(University of Sassari・伊)の共同研究チームは今回、ミツバチ特有の寄生虫である「ミツバチヘギイタダニ(学名:Varroa destructor)」がコロニーに侵入することで、感染拡大を防ぐための社会組織の変化が誘発されるかどうかを調査しました。
ミツバチヘギイタダニは、ミツバチのコロニーを破壊する危険のある少なくとも5種類のウイルスを拡散する媒介者です。
世界的にミツバチのコロニーが失われている主原因の1つと考えられています。
当然ながら、最初に感染するのは外を飛び回る働きバチです。
働きバチは、主な行動として、八の字ダンスとグルーミング(毛繕い)をしますが、この内、寄生虫を拡散するリスクが高いのは八の字ダンスの方です。
グルーミングは逆に、仲間に寄生したダニを取り除く行為として知られます。
「八の字ダンス」を遠くでするように
本研究では、正常なミツバチのコロニーと、ミツバチヘギイタダニを感染させたコロニーを比較し、働きバチの動きがどう変化するかを実験しました。
その結果、正常なコロニーでは、八の字ダンスもグルーミングも非常に近い場所で行っていたのに、ダニに感染したコロニーでは、グルーミングを巣の中心側で、八の字ダンスを中心部から離れた外側でするようになったのです。
これは、グルーミングと八の字ダンスの間で社会的距離が取られ、感染リスクの高い八の字ダンスを女王や子どもから出来るだけ離していることを意味します。
ミツバチのコロニーで、感染防止のための社会組織の変化が確認されたのは初めてです。
研究主任のミックリーナ・プセッドゥ(Michelina Pusceddu)氏は、次のように説明します。
「寄生虫に侵されたコロニー内で、2つのグループ間の社会的距離の増加が観察されたことは、病原体や寄生虫と闘うためにミツバチがどのように進化してきたかを示す驚くべき発見です。
病気の脅威に対応して社会構造を変化させ、個体間の接触を減らす能力を持つことで、可能な限り社会的相互作用の利点を最大化し、必要に応じて感染症のリスクを最小化できると考えられます。
こうしたミツバチのコロニーは、ソーシャルディスタンスの取り方を研究し、この行動の価値と有効性を十分に理解するための理想的なモデルとなるでしょう」