科学的根拠がない? 鍼治療の謎
伝説によると、鍼治療の始まりは紀元前2600年頃、異民族との戦闘中に矢を受けた兵士が偶然発見したと伝えられています。
その兵士は、矢傷が致命傷になることなく助かり、その上矢傷がきっかけで長く患っていた病気まで治ったのです。
真偽は不明ですが、それから数千年に渡り、鍼治療は中国の伝統的な医療として継承されてきました。
近代では一時期、廃れていた期間もありますが、毛沢東がこれを復権させました。
また、1972年ニクソン訪中の際に、米国人記者ジェイムズ・レストンが現地で受けた鍼治療によって虫垂炎手術後の猛烈な腹痛が改善されたと記事にしたことで、大きく世界に広まりました。
鍼治療は現在かなり一般にも浸透していて診療所もよく見かけます。
そのため鍼治療とは、医学的に根拠のある神経を刺激して治療する正当な医療行為だと考えている人は多いかもしれません。
しかし、実際には鍼治療のメカニズムは科学的にはまったくわかっていません。
なぜなら鍼治療自身が大真面目に、その治療方法について、鍼治療は人体に流れる「気」の通路である「経絡」に沿って存在するツボ(経穴)に、鍼を刺すことで生命力のバランスを整えて体のさまざまな異常を取り去ると説明しているからです。
この説明を真面目に受け取る人は、現代ではかなり少数でしょう。
また、人体に流れる「気」と呼ばれるものや、経絡と呼ばれるものに該当しそうな器官も、解剖学的に発見されてはいません。
しかし、多くの人がその確かな治療効果を訴える以上、医学がその意味を見つけ出させていないだけで、鍼には何かがあるのだろう、と考えるのは自然なことに思えます。
そこで、鍼治療の解剖学的なメカニズムを明らかにしようと研究を続ける科学者も多く存在するのです。
今回は、ハーバード大学医学部で鍼治療の研究を行うマー・チォウフ(馬秋冨:Qiufu Ma)氏が、電気鍼治療について、その効果のメカニズムの一端を明らかにしたと報告しています。