ゾンビ化して死姦させるヤバめの真菌
昆虫に感染する菌類は、さまざまな方法で子孫を広げようと進化してきました。
そんな中でもっとも強烈な進化を果たしたうちの1つが、昆虫をゾンビ化する菌たちです。
ゾンビ化菌は昆虫の脳を支配して、目立つ場所に誘導したり、交尾を促したりすることで、感染者を増やすことが可能です。
しかし「E. muscae」と呼ばれるハエに感染するゾンビ化菌は少し様子が違いました。
E. muscaeはメスのハエに感染すると脳を支配し、メスを高い場所に誘導します。
そしてメスが高所にたどり着くと、翅を上方に向けるように広げさせ、そのままの姿勢を維持したまま殺害します。
高い場所にメスを移動させて翅を広げることで、胞子を風に乗せやすくなるためだと考えられます。
ですがE. muscaeはここからが異なります。
通常、宿主が死ぬとゾンビ化菌は宿主の体を苗床(栄養源)として利用するに留まります。
ゾンビ化菌といえど、死んだ宿主は操作のしようがないからです。
しかしE. muscaeによって殺されたメスの死体は、食べ尽くされる前に、もう一仕事が求められました。
メスの死後24時間が経過したころ、次々にオスが群がり、死体との交尾(死姦)をはじめます。
ですがそれは死の罠でした。
E. muscaeによって殺されたメスの体の表面は胞子(分子生)でビッシリと覆われており、死姦したオスもまたE. muscaeに感染して命を落とすことになるのです。
スウェーデン農業科学大学の研究者たちが調査を行った結果、E. muscaeによって殺されたメスの死体に対してオスが交尾を試みる回数は、生きている健康なメスに対する場合と比べて5倍にも上ることが判明します。
この結果は、E. muscaeによって殺されたメスの死体はオスにとって、生きている健康なメスよりも遥かに魅力的であることを示します。
問題は、その理由です。
E. muscaeはいったいどんな手段で、オスを誘惑していたのでしょうか?