人間の視覚には「空気を読む」ための“第3の回路”があるようだ
人間の視覚には「空気を読む」ための“第3の回路”があるようだ / Credit:Canva
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人間の視覚には「空気を読む」ための“第3の回路”があるようだ

2025.12.26 21:00:37 Friday

イギリスのヨーク大学(UoY)のPitcher氏らによるレビュー論文にて、人間の脳には、相手の表情や動作から「その人の意図や感情(気持ち)の手がかり」を読み取るための、第3の視覚経路が存在する可能性が示されました。

ここでいう「読み取り」とは、相手の頭の中を直接のぞき見る超能力的な意味ではなく、もっと馴染み深いものです。

教室に入った瞬間に、友達の目線の揺れや笑顔の立ち上がり方から「今は話しかけてもよさそうだ」と判断するような、あの“空気感”の読み取りです。

なぜ人間は空気感を読む専用の脳回路を進化させたのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年12月10日に『arXiv』にて発表されました。

The Third Visual Pathway for Social Perception https://doi.org/10.48550/arXiv.2512.09351

視覚は2ルートのはずだった

視覚は2ルートのはずだった視覚は2ルートのはずだった
視覚は2ルートのはずだった視覚は2ルートのはずだった / Credit:The Third Visual Pathway for Social Perception

科学の教科書では長らく、人間の視覚には2つの経路が基本モデルとして説明されてきました。

一つは、物体が「何であるか」を見分けるルートです。

もう一つは、物体が「どこにありどう動くか」を扱うルートです。

この二重の視覚モデルは視覚研究の基本となり、実際に脳損傷の症例でも「物は認識できるが位置がわからない」患者とその逆の患者が報告され、2経路の存在が支持されてきました。

しかし視覚情報は本当にこの2経路のみが全てを担当しているのでしょうか。

たとえば教室に入った瞬間、友達の表情やしぐさから「今話しかけても大丈夫かな?」と察した経験は誰にでもあるでしょう。

このような視覚から「人の意図や感情(気持ち)」を読み取る能力――いわゆる「空気を読む力」は誰もが知るところです。

ここで重要なのは、空気を読むとき私たちが見ているのが、顔の“形”そのものというより、顔がどう変わっていくか、つまり表情の変化や視線の動きといった「流れ」だという点です。

物体が「何であるか」、「どこにありどう動くか」という既存の2経路だけで、この「流れ」から人の心の状態を推測するのは、少し無理のある話に見えてきます。

今から40年ほど前に行われた古い研究でも、そのヒントとなる現象が記録されています。

脳の損傷で顔が誰だかわからなくなる「相貌失認(顔盲)」の患者において、知人と他人の顔写真では皮膚電気反応(汗などに伴う反応)が違って出るという不思議な現象が報告されたのです。

本人は視覚的にそれが誰か意識できなくても、体は何かを感じ取って反応していました。

この事実は、顔を「誰か」として見分ける通常ルートとは別に、顔から“社会的な意味”を受け取るルートがあるのではないか、と当時の研究者に推測させました。

そこで近年の研究では「人間の視覚に他人の意図を読み解く第3の経路があるのではないか」という仮説を、より直接的な形で検証することにしました。

もしそのような経路が本当に存在するなら、そこが壊れた人では、写真の表情は読めても、空気感を左右するような“動きのある表情の変化”が読み取りにくくなるかもしれません。

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