古代中国の鼻削ぎ刑の初めての人骨証拠か——鼻切断をめぐる特異な考古学的事例
古代中国の鼻削ぎ刑の初めての人骨証拠か——鼻切断をめぐる特異な考古学的事例 / Credit:First skeletal evidence of facial mutilation as a form of punishment from ancient China (1298–1404 CE): A unique archaeological case of nasal amputation in Yuan-Ming Dynasties
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古代中国の鼻削ぎ刑の初めての人骨証拠か——鼻切断をめぐる特異な考古学的事例

2026.09.20 18:00:10 Sunday

中国の鄭州大学とアメリカのテキサスA&M大学などで行われた研究によって、古代中国の法典に記された「鼻を削ぎ落とす刑」を受けたとみられる人骨が初めて見つかり、その女性が刑のあとも何年ものあいだ生き続けていたことが明らかになりました。

鼻を削ぐ刑は、首を斬る刑や去勢と並ぶ「五刑」の一つとして数千年にわたって記録され、元王朝(1271〜1368年)の末期には主に家畜泥棒に科されていました。

ところが文字の記録はこれほど豊富なのに、実際にその刑を受けた人の骨は、中国の遺跡から一度も報告されていなかったのです。

論文では、確認されればこれが古代中国における懲罰的な鼻切断の最初の考古学的事例になる、と記述されています。

鼻を失った彼女は、そのあとをどう生きたのでしょうか。

研究内容の詳細は2026年9月3日に『Journal of Archaeological Science: Reports』にて「古代中国(1298〜1404年)における刑罰としての顔面切断の、初めての人骨証拠——元・明王朝の鼻切断をめぐる特異な考古学的事例(First skeletal evidence of facial mutilation as a form of punishment from ancient China (1298–1404 CE): A unique archaeological case of nasal amputation in Yuan-Ming Dynasties)」とのタイトルで発表されました。

First skeletal evidence of facial mutilation as a form of punishment from ancient China (1298–1404 CE): A unique archaeological case of nasal amputation in Yuan-Ming Dynasties https://doi.org/10.1016/j.jasrep.2026.106031

牛や馬を盗めば鼻を削ぐ──条文はあるのに、体が出てこない

牛や馬を盗めば鼻を削ぐ──条文はあるのに、体が出てこない
牛や馬を盗めば鼻を削ぐ──条文はあるのに、体が出てこない / 劓という字の事例/Credit:First skeletal evidence of facial mutilation as a form of punishment from ancient China (1298–1404 CE): A unique archaeological case of nasal amputation in Yuan-Ming Dynasties

昔の刑罰がどれほど残酷だったかは、歴史の授業でひととおり習います。

けれども私たちがそれを知っているのは、教科書や古文書に書かれた文字を通してです。

古代中国の「五刑」のうち、鼻を削ぐ刑も、長いあいだそういう存在でした。

五刑とは、首を斬る、足を切る、去勢する、鼻を削ぐ、顔に入れ墨を入れるという5つの刑罰のことです。

鼻を削ぐ刑は「劓(ぎ)」と呼ばれ、殷の時代の甲骨文字では、鼻の横に刃物を添えた形で書かれていました。

文字そのものが、刑の光景をかたどっているのです。

記録の量も、決して少なくありません。

西周の刑罰を伝える『尚書』の「呂刑」には、五刑で裁かれる罪は全部で三千あり、そのうち千が鼻を削ぐ刑にあたる罪だと記されています。

時代が下った元王朝の末期になると、この刑はもっぱら家畜泥棒に向けられました。

『元史』には、牛や馬を盗んだ者は鼻を削ぐ、ロバやラバなら額に入れ墨を入れて再犯で鼻を削ぐ、というように、盗んだ家畜ごとに刑が定められています。

そして、鼻を削がれたあとにまた盗んだ者は死刑にする、とも書かれています。

これだけの記録が残っているのに、中国の遺跡からは、鼻を削がれた人の骨が1体も見つかっていませんでした。

刑罰の条文は山ほどあるのに、刑を受けた体が一つも出てこない。

その空白を埋めたのが、河南省三門峡市の墓地から出た1つの頭蓋骨でした。

次ページ鼻の穴が3割広く、切り口は丸く治っていた

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