VRで性転換すると「同性NCPからの愛撫」も好意的に感じると判明!

自分の性別が何であるかは、自分本来の心に加えて、積み上げられてきた経験によって形作られていきます。
しかし「性的興奮」の対象など、生物学的な反応においては「経験」の積み重ねよりも「心」の影響を大きく受けると考えられていました。
たとえ女性として育てられた「経験」があっても「心」が男性ならば、性的興奮の対象は男性ではなく女性になる確率が高いと予測できたからです。
実際「心」の影響は強く、時には「うまれついての体」に対しても反発し、性同一性の問題を生じさせることもあります。
しかし「心」が本当に「性的興奮」の方向性を完璧に支配しているかは不明でした。
確かめるためには、究極的には「男性の心」を持つ人間に「女性の体」を与えてみる(あるいはその逆)を行う必要があったからです。
体が性転換しても性的興奮の方向が変わらなければ「心」は「体」よりも強いと言えるでしょう。
問題は、そのような試みが不可能な点にありました。少なくともこれまでは。
しかしVR技術の普及により「体の性転換」という不可能を可能にすることが可能になりました。
そこで今回、ローマ大学の研究者たちは異性愛者の被験者たちを集め、VR世界での性転換と性的な接触(愛撫)を経験してもらうことにしました。
被験者たちの「異性愛者としての心」は体の性転換と愛撫に、どこまで耐えられたのでしょうか?
結論から言えば、心は体の変化に流されました。
コラム:最近の研究成果が示す「異性アバターを使うことで起こる変化」
最近の研究では、異性アバターになる体験は「眼鏡の度数をほんの少し変える」ように、ものの見え方を微妙に調整することがわかってきました。
実際には、どの程度ズレるかは体験の作り方(視点やカスタマイズ方法)と、体験者の属性(たとえば性別)によって変わることがここ1〜2年で示されています。
2025年に誌面掲載(2024年10月オンライン)された実験では、参加者40人のうち半数の20人(50%)が「同じ性別アバター」、残り20人(50%)が「異性アバター」を体験しました。
結果は、全体の感受性の大幅上昇までは統計的に言い切れないものの、異性ではなく女性アバターを着るとハラスメント行動をより「不適切」と判定する傾きが強まることが示されています(介入効果の示唆)。
言い換えると、同じ出来事でも“どの身体で受け止めるか”で線引きが少し厳密になる可能性がある、ということです。
日常型メタバースの調査では、アンケート144人(100%)に対し、さらに20人(14%)へインタビューを行い、女性が男性アバターを用いると「自分は何者か」という手応えや性別理解の更新に関連が示されています。
比喩で言えば、鏡の前で立ち位置を半歩ずらすと映り方が変わる、という近さです。
現実には、性自認が劇的に変わるというより、社会の性役割を見る角度が少し変わる“視点の獲得”に近いと報告されています。
体験設計の核心はどの視点で、どう作るかです。
同一タスクでも、一人称で自分の身体としてアバターを調整した群(約42人中の半数≒50%)は、三人称で外から弄る群(残り≒50%)に比べ「これは自分の体だ」という所有感が高まり、暗黙バイアス(IAT:無意識の連想の偏り)も一人称側で下がる方向が示されています。
現実対応としては、鏡+自分の動きとの同期の組み合わせが効く、という設計上のヒントです。
「どこを似せるか」も効きます。
32人(100%)を用いた2×2(性別一致/不一致 × 民族性一致/不一致)の実験では、民族性を一致させると総合的な“自分ごと感”が上がり、性別を一致させると特に“所有感”に効くことが示されています。
現実に落とすなら、異性アバターでも顔立ち・肌色・雰囲気など自分らしさの手がかりをどこかに残すと、体験が自分事化しやすくなります。
感じ方の性差にも注意が要ります。
40人(女性20人=50%、男性20人=50%)の実験では、女性は体験後に体の見積もり(とくにヒップ)や満足度が動きやすい一方、男性は同期刺激(現実と映像が合う条件)でウエストの見積もりだけが変わりやすいことが示されています。
現実対応としては、同じプログラムでも男女で効きやすい感覚の“ツボ”が少し違うため、設計と評価は層別化しておくと安全です。
「VRは本当に必要か?」という問いにも、学校現場の大規模試験がヒントを出しています。
847人(100%)をVR群286人=34%/非VR群268人=32%/対照群293人=35%に分けたクラスターRCTでは、VRと非VRの差は「傍観者として介入する意図」だけで明瞭に出て、その他の指標では有意差が見られないと示されています。
現実対応としては、費用対効果を見ながら“どの指標にVRを効かせたいか”を絞るのが賢明、という判断材料になります。
総じて、異性アバター体験は強い魔法ではなく「繊細な補正レンズ」です。
現実対応としては、一人称視点+鏡+動きの同期を押さえ、完全コピーでなくても自分らしさの手がかりを残す設計で、判断基準や視線の向きを少しだけ動かすことができます(設計の勘所は上記の通り介入で示されています/観察で関連が示されています)。
その“少し”が積み重なると、研修や教育の場で、対話と理解の糸口としては十分に効く――ここが、最新研究の一番現実的で心強い結論です。