見せかけの進化爆発
カンブリア爆発(Cambrian explosion)は、約5億4200万年前のカンブリア紀に突如として、現在見られるような生物が出揃ったとされる現象です。
進化は徐々に進んでいくという認識に対して、これは突然多様な進化が起こったように見られることから、オカルトチックな解釈をされることもあります。
しかし、1869年にグランドキャニオンで行われた地質調査では、カンブリア紀と先カンブリア紀の間に、地層の不整合(Unconformity)があり地質の構造が繋がっていないことがわかっています。
この時代の長期間の地質の消失は、世界中で見ることができ、地質学では「大不整合(Great Unconformity)」と呼ばれています。
この大不整合の起きている地層では、化石のある岩石が、化石のない(あるいはバクテリアの化石しかない)岩石の上に乗っているという状態で、このため突然生物進化が進んだように見えているのです。
カンブリア爆発と呼ばれる現象は、この「大不整合」に見られるため、本来は徐々に進んでいた進化過程の地層が失われたことで生じた見せかけの現象だった可能性があるのです。
研究者たちは、この時代の大規模な地質記録の欠落原因を説明しようと、1世紀以上にわたって努力してきました。
そして最近になって2つの説が、登場したのです。
1つが、2019年「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された「スノーボールアース(全球凍結)説」です。
全球凍結は、地球のほぼ全土が凍結したという史上最大の氷期のことで、このときの氷河の侵食によって地球全土の岩石を削り取ってしまったというものです。
もう1つは2020年に、氷河がそこまで侵食性があるのかどうかを疑問視する研究者たちによって提唱された、「地殻変動活動説」です。
こちらの説では、太古に存在したロディニア大陸の形成や離散によるプレートテクトニクスの活動によって大規模に地質が失われたと説明しています。
今回の研究は、全球凍結説を支持しています。
研究チームは熱年代学により、北アメリカの広い地域の岩石を調査しました。
熱年代学では、鉱物結晶が時間の経過とともに受けた温度や、大陸地殻内での位置を推定することができ、失われている岩石がいつ取り除かれ、そして現在の表面に露出している岩がいつ掘り起こされたのかという証拠を提供することができます。
その結果、岩石が経験した時間と温度経路のシミュレーションから、北アメリカの内部を横切る全球凍結期間を示す、約5kmの地層が侵食され失われていることが示されました。
この調査地域は、大陸の一部であり、プレートテクトニクスの活動は当時から安定していた場所です。
このため、研究者たちは、この期間の地層が失われた原因は氷河の侵食のみであると考えています。
「根底にある概念は非常に単純です。何かが多くの岩を取り除き、その結果、多くの地球の記録が失われました。
私たちの研究は、これが氷河の侵食だけで起きた可能性を示しています」
研究チームの一人であるダートマス大学のブレチン・ケラー(Brenhin Keller)氏はそのように語ります。
研究者によると、新しい発見は、約5億3000万年前のカンブリア爆発の時期の地層の消失と複雑な生物の出現との関連を説明するのにも役立つといいます。
大陸の岩石を削った氷河は、海中に流れ込み、そこで複雑な生命を構成するための栄養豊富な環境を作り出した可能性があるのです。
チームはこれが熱年代学モデリングを使用した、10億年をはるかに超える期間を研究する最初のものだと説明します。
チームは今後、さらに他の大陸に見られる大不整合の地層についても調査を行い、この仮説をテストする予定だと話します。
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