節足動物の進化の穴を埋める「ミッシング・リンク」となるか
この奇妙な節足動物の化石は、昨年夏、カナダ東部のインフラサービス会社であるトムリンソン・グループ(Tomlinson Group)が所有する採石場にて発見されました。
研究チームは、発掘を許可してくれた同グループに敬意を表し、新種の学名を「トムリンソヌス・ディミトリ(Tomlinsonus dimitrii)」と命名しています。
驚くべきは、T. ディミトリの体に硬い部分がないにもかかわらず、化石の保存状態がきわめて良好だった点です。
一般に、骨や貝殻などは保存されやすいですが、皮膚や筋肉のような軟組織は地中で分解され、めったに化石として残りません。
研究主任のジョセフ・モイシューク(Joseph Moysiuk)氏は「この場所では、体の一部が鉱物化した棘皮動物の化石はよく見つかりますが、軟組織ばかりの生物が見つかるとは思いもしませんでした」と話します。
T. ディミトリの全長は約6センチで、手のひらに収まるほど小さいです。
頭部に鳥の羽のような突起を2本持ち、同じものが後部にも生え出ています。
昆虫やクモなどの節足動物に似た体節があり、複数の手足を持ちます。
最も目を引くのは、頭の下に伸びた極めて長い一対の脚で、先端が二又に分かれています。
おそらく、この2本の脚を竹馬のようにして、海底を移動していたのでしょう。
また、目の痕跡がまったくないため、盲目であった可能性が高いようです。
モイシューク氏によると、T. ディミトリは、過去にバージェス頁岩で発見されたマーレラ・スプレンデンス(Marrella splendens)という絶滅節足動物に似ているとのこと。
バージェス頁岩は、約5億500万年前(古生代カンブリア紀中期)に当たるカナダの化石地層で、古代海洋生物の化石を多産していることで有名です。
M. スプレンデンスは、当時生息していたマーレラ類・マーレラ属に分類され、同属ではこの1種のみしか知られていません。
研究チームは、今回の発見が「マーレラ類のグループにおける化石記録のミッシング・リンクを埋める助けになる」と期待しています。
T. ディミトリの化石標本は現在、ROMのコレクションとして保管されており、今後、同博物館の展示会「Dawn of Life」で一般公開される予定です。