日本人の名前が付けられた鉱物5選
日本人の名が付けられた鉱物と言われても、すぐに思い浮かぶ人は少ないでしょう。
残念ながら日本人の名前を冠していながら、日本ではマイナーな鉱物というケースは少なくありません。
しかし、その一つ一つに、魅力的な特徴やエピソードが詰まっています。
今回はその中から厳選した鉱物を5つ、ご紹介いたします。
杉石(スギライト)
最初にご紹介するのは、鮮やかな紫色が特徴的な「杉石(すぎせき)」こと「スギライト」です。
世界三大ヒーリングストーンの一つとして、日本人の名前が付いた鉱物の中ではトップクラスの知名度を誇っています。
杉石の名前の由来は、この鉱物を発見した岩石学者の杉健一(すぎけんいち)氏です。
「あれ?発表者の名前は付けられないんじゃないの?」という疑問を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
というのも、杉氏はこの鉱物を「発見」はしたのですが、ミラー石という別の鉱物であると考えており、新種鉱物として発表することはありませんでした。
新種の鉱物であることを突き止め、それを「発表」したのは、杉氏の弟子である村上允英(むらかみのぶひで)氏だったのです。
もし杉氏が杉石を新種の鉱物だと突き止めていたら、また別の名前になっていたことでしょう。
ちなみに、杉石といえば、南アフリカのウィーセル鉱山で採れる濃い紫色をしているものが有名ですが、杉氏や村上氏が研究していたのは、愛媛県岩城島で発見されたウグイス色をした杉石でした。
後に村上氏が南アフリカ産の紫色の杉石を見た時、自分が知っている杉石とはあまりにも見た目が違いすぎて驚いたというエピソードが残っています。
逸見石(ヘンミライト)
「逸見石(へんみいし)」または「ヘンミライト」は岡山県備中町の布賀鉱山で初めて発見され、現在も布賀鉱山でわずかしか産出していない、名実ともに日本独自の希少鉱物です。
逸見石の名前の由来は、親子で布賀鉱山の鉱物を研究していた、鉱物学者の逸見吉之助(へんみきちのすけ)氏と逸見千代子(へんみちよこ)氏の名前です。
1986年に化学者の中井泉氏らによって発表され、その美しさから一躍注目を浴びました。
日本で産出する鉱物は茶色や無色など、比較的地味な色合いをしていることが少なくありませんが、逸見石は透明感のある鮮やかな青い色をしています。
国産鉱物をあまり知らない鉱物コレクターに見せると「え、こんな派手な石が日本で採れるの!?」と驚かれることも。
特に、方解石(カルサイト)と共生している逸見石は、鉱物コレクターの間では「ルリスズメタイプ」と呼ばれ、人気を集めています。
方解石のサンゴ礁の中を泳ぐルリスズメダイのような逸見石は、南国の海をそのまま切り取ったかのような美しさがあります。
南部石(ナンブライト)
「南部石(なんぶせき)」または「ナンブライト」は1972年に発表された鉱物です。
岩手県大野村の舟小沢鉱山で発見され、旧地質調査所に在籍する鉱物学者である吉井守正氏などにより発表されました。
南部石の名前の由来は、東北大学で鉱物学者として活躍していた南部松夫(なんぶまつお)氏の名前です。
透明感のある鮮やかな赤~オレンジ色をしており、とても美しい鉱物です。
また、南部石が発見されてからしばらくして、南部石の中のリチウムの半分以上がナトリウムに置き換わった新鉱物が発見され「ソーダ南部石」と名付けられました。
つまり、南部氏は2種類の鉱物の名前の由来になった人物なのです。
南部氏と同様、2種類以上の鉱物に名前が付けられた人物は、櫻井欽一(さくらいきんいち)氏(櫻井鉱、欽一石)、逸見千代子氏(逸見石、千代子石)などがいます。
原田石(ハラダイト)
「原田石(はらだせき)」または「ハラダイト」は、1982年に岩手県の野田玉川鉱山と鹿児島県の大和鉱山から発見された鉱物です。
バラ輝石(ロードナイト)、菱マンガン鉱(ロードクロサイト)、石英(クォーツ)などの赤や白の鉱脈の中に、ひときわ目立つエメラルドグリーンの鉱物として発見されました。
原田石の名前の由来は、鉱物学者の原田準平(はらだじゅんぺい)氏です。
原田氏は北海道大学の教授や旧日本鉱物学会(現・日本鉱物科学会)の初代会長を務めたという経歴の持ち主で、その功績を讃えて名前が付けられました。
ちなみに、この鉱物には成分がよく似た「鈴木石」というそっくりさんがいます。
原田石も鈴木石もバリウムとストロンチウムを含んでいるのですが、鈴木石よりもストロンチウムの比率が高いのが原田石の特徴です。
松原石(マツバライト)
「松原石(まつばらせき)」または「マツバライト」は、新潟県糸魚川市の小滝川で発見され、2002年に発表された鉱物です。
糸魚川市にあるフォッサマグナミュージアムの鉱物学者である宮島宏氏らが、糸魚川市流域で産出する翡翠(ジェダイト)の中から発見しました。
名前の由来は、国立科学博物館の鉱物学者である松原聰(まつばらさとし)氏です。
松原氏は自身の著作『新鉱物発見物語』にて、宮島氏らによる松原石の発見から命名までの経緯を残しています。
「新鉱物に松原さんの名前を付けてもよろしいか」という連絡が来た時の松原氏の気持ちを考えると、こちらまでワクワクしてきますね。
こんな鉱物もある!「県名」が付けられた鉱物
さて、ここまでで日本人の名前が付けられた鉱物をご紹介いたしました。
しかし、日本人の名前以外にも、日本にゆかりのある名前を付けられた鉱物が存在します。
それが「県名」が付けられた鉱物。
人名に比べるとはるかに少なく、2022年の段階ではわずか4種類しかありません。
日本で最初に県名が付けられた鉱物は、1958年に発見された「滋賀石(しがせき)」こと「シガアイト」です。
滋賀県栗東市にある五百井鉱山のマンガン鉱の中に発見された鉱物で、発表者はミシガン大学の鉱物学者であるドナルド・ピーコー氏です。
発表者が日本人ではなく外国人なのに、鉱物の名前は県名という、とても面白い鉱物です。
滋賀石の発見を皮切りに、「岡山石(おかやませき、オカヤマライト)」、「新潟石(にいがたせき、ニイガタイト)」、「東京石(とうきょうせき、トウキョアイト)」と、少しずつですが県名の付けられた鉱物が登場するようになりました。
今後も増える?日本人の名前が付けられた鉱物
今回は、日本人の名前が付けられた鉱物を5種類、ご紹介いたしました。
- 杉石(スギライト)
- 逸見石(ヘンミライト)
- 南部石(ナンブライト)
- 原田石(ハラダイト)
- 松原石(マツバライト)
新種の鉱物は、現在も世界各地で発見され続けています。
もしかしたら、日本でもまた新たな鉱物が発見され、日本人の名前が付けられることもあるかもしれません。
今後の鉱物学者の方々の活躍、そして新種鉱物の発見に期待しましょう。