バランス感覚の衰えは「健康状態の悪化」につながっていた?
今回の研究は、2009年2月〜2020年12月まで行われたもので、51~75歳(平均61歳)のボランティア、計1702人(男性68%・女性32%)に参加してもらいました。
被験者には、体重や皮下脂肪、ウエストサイズなどを測定した上で、過去の病歴を調べ、歩行が安定している人のみを対象としています。
バランス感覚の指標には「片足立ちテスト」を採用しました。
方法としては、視線をまっすぐに、両手は体側に下ろしたまま、左右どちらかの脚をあげた状態で、10秒間維持できるかどうかをチェックします。
これを左足と右足のそれぞれで3回ずつ試行します。
調査の結果、1702人中348人(全体の20.5%)、つまり5人に1人がバランスを保てないと判明しました。
テストの不合格者は5年ごとにほぼ倍増しており、51〜55歳では5%、56〜60歳では8%、61〜65歳では18%、66〜70歳では37%となっています。
そして、71〜75歳では、半数以上の54%が片足で10秒間立つことができませんでした。
この年齢層では、20歳下の被験者(51〜55歳)に比べて、約11倍も不合格になる確率が高かったのです。
さらに、被験者の健康状態を数年にわたって追跡し、死亡例とその原因について詳しく調べました。
すると予想通り、バランス感覚に衰えが見られた被験者ほど、追跡期間中の死亡率が高かったのです。
平均7年間の追跡期間で、123人(7%)の被験者が亡くなっており、主な死因としては、がん(32%)、心血管疾患(30%)、呼吸器疾患(9%)、COVID-19合併症(7%)でした。
死因に差はなかったものの、死亡者のうち、片足立ちテストの合格者は4.5%にとどまったのに対し、不合格者では17%を上回っていたのです。
死亡率の差の明確な原因はわかっていませんが、しかし、バランス感覚の低下した被験者は、全体的に健康状態が悪く、冠動脈疾患、高血圧、糖尿病の症例が多かったことから、健康状態の悪化や回復能力の低下につながった可能性があります。
総じて、年齢、性別、基礎疾患の全てを考慮した結果、10秒間の片足立ちができない高年層は、そうでない高年層に比べて、10年以内の死亡リスクが84%高くなると結論されました。
まとめ
本研究は、バランス感覚と死亡率との相関関係を調べたものであり、その詳しいメカニズムまでは明らかにされていません。
しかしバランス感覚の低下が、転倒だけでなく、何らかの病気の発症や健康状態の悪化と関係していることは確かなようです。
研究チームは、日頃から片足立ちをしたり、バランス感覚を鍛えるトレーニングを取り入れることで、高年層の健康寿命を伸ばせるかもしれない、と指摘しています。