ブラックホールをわずか4年で一周する恒星を新発見!
いて座A*は、太陽の約400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール(SMBH)であり、直径は約6000万kmに達するとされます。
これは、おおよそ太陽から水星までの距離です。
今年5月に、国際プロジェクト・イベントホライズンテレスコープ(EHT)によって、いて座A*の直接観測に成功したことは記憶に新しいでしょう。
そして、このブラックホールの周辺には、星が密集してできた「星団」が存在し、明るさや質量の異なる恒星が100個以上集まっています。
この中で最も有名な恒星の一つである「S2」は、ブラックホールまで約200億km(太陽ー海王星間の4倍以上)に近づく軌道を公転しており、約16年でブラックホールを一周します。
スピードも速く、ブラックホールに最接近するときの速度は、光速の3%に達するという。
一方で、他の星々の動きを見るには、このS2が大きな障壁となっていました。
本研究主任のフロリアン・ペイスカー(Florian Peissker)氏は「S2は、例えるなら、映画館の前の席に座っている大柄な人のようで、その向こうを見えづらくしている」と話します。
それでも、ほんの一瞬ではあるものの、他の恒星の動きを観察できるタイミングがあります。
そこで研究チームは今回、過去20年近くにわたる観測データを改良された方法により分析。
結果、いて座A*をわずか4年で公転する恒星を新たに特定したのです。
この星は「S4716」と命名され、その移動速度は秒速8000kmに達するとのことです。
S4716を観測した望遠鏡は全部で5台あり、そのうち4台を1つの大型望遠鏡として統合することで、より正確かつ詳細な観測が可能になりました。
S4716は、ブラックホールに100AU(天文単位)まで接近しますが、これは天文学的な基準からすると小さな距離です。
(※ 1AUは、地球から太陽までの距離を表し、1億4959万7870kmに相当します)
ご覧の通り、S4716の公転軌道は、S2のそれより、はるかに小さいことがわかります。
しかし、いくら軌道が小さいといってもその距離は「いて座A*」へ最接近時で100AUです。
太陽系において冥王星の軌道半径が40AUであり、その公転周期が248年であることを考えると、この星のたった4年の公転周期がいかに異常な速度であるかイメージできると思います。
この発見について、ペイスカー氏は「超大質量ブラックホールにこれほど近く、また安定した軌道を高速で移動する星の存在は、まったく予想外のことでした」と話しています。
さらに、今回の発見は、天の川銀河の中心を高速で移動する”恒星軌道の起源と進化”について新たな問題を提起します。
研究チームによると、S4716の短周期でコンパクトな軌道は非常に不可解であり、いかにしてその軌道やスピードに落ち着いたのか、解明していきたいと述べています。