クラシック音楽で「イルカの幸福度」がアップする⁈
パドヴァ大学の研究チームは、イルカが発声学習をする動物であることから、ある種のリズムも知覚できるかもしれない、と考えました。
研究主任のセシル・ゲリノー(Cecile Guerineau)氏は「私たちがパーティでダンスをすると気分がよくなり、人と人との絆が深まるように、イルカもリズムに合わせて仲間と同調すると、行動にポジティブな変化が出るのではないか」と述べています。
そこで本研究では、イタリア中部リミニ県のリッチョーネにあるイルカ園で飼育されている8頭のバンドウイルカ(Tursiops truncatus)を対象に、クラシック音楽を聴かせる実験を開始。
オス3頭、メス5頭で、年齢は5歳〜49歳と幅広く、うち3頭は野生下で生まれた個体です。
展示エリアとは別の隔離されたプールに水中スピーカーを設置し、1日20分のクラシック音楽を数日おきに、計7回聴かせました。
セレクトした曲は、次の5つです。
・バッハ:平均律 第1巻 第1番 ハ長調 前奏曲 BWV846
・グリーグ:『ペール・ギュント』第1組曲の第1曲「朝」
・カミーユ・サン=サーンス:『動物の謝肉祭』第13曲「白鳥」
・ドビュッシー:『水の反映』
・ベートーベン:幻想曲風ソナタ「月光」嬰ハ短調 作品27-2(第14番)
クラシック音楽との比較として、無作為に選んだ7日間で、雨音を聴かせたり、テレビモニターでリラックスできる自然環境の映像を見せたり、水に浮かぶおもちゃを与えて遊ばせたりしました。
時間はすべて20分間に設定しています。
実験の様子は2台のビデオカメラで記録され、それをもとに、各内容ごとのイルカの行動の違いを分析。
その結果、クラシック音楽だけが、実験中および実験後の両方で、イルカの社交性を向上させることが判明しました。
具体的には、仲間に対する友好的な行動や、一緒に泳ぐ時間の増加が確認されています。
この効果は、他の環境音やおもちゃでは起こりませんでした。
ゲリノー氏は、この社交性の向上について、「クラシック音楽がイルカの脳を活性化し、内因性オピオイド(エンドルフィンなど、気分を向上させる化学物質)の産生を促したためだろう」と指摘。
「すでに広範な動物において、エンドルフィンが社交性の向上に関係していることが知られており、オピオイド受容体の活性化は、多幸感の増大に繋がる」と続けます。
つまり、クラシック音楽を聴いている最中、イルカのストレスは緩和し、幸福度が高まっていると考えられるのです。
以上の結果は、クラシック音楽がイルカの行動に対してポジティブな効果を持ち、最上の環境エンリッチメントであることを示唆します。
※ 環境エンリッチメント:飼育動物の異常行動を減らし、健康と福祉を改善して、”幸福な暮らし”を実現するための具体的な方策
今後、イルカの飼育にクラシック音楽を取り入れることが、世界のスタンダードとなるかもしれません。