原因は「地軸のブレ」がなくなったこと?
地球の自転速度は、月の重力や海の潮汐、あるいは大気の循環プロセスなど、さまざまな要因によって日々変動しているため、どれか一つに絞ることができません。
それでも研究者は、暫定的なアイデアを提示しています。
ロシア・モスクワ国立大学(MSU)のレオニード・ゾトフ(Leonid Zotov)氏によると、原因は「チャンドラー・ウォブル(Chandler wobble)」に何らかの関係があるという。
チャンドラー・ウォブルとは、1891年にアメリカの天文学者、セス・チャンドラーが発見した「地球の自転軸の周期的なブレ」を指します。(ウォブルは”ぐらつき”を意味する)
チャンドラーによると、地球の自転軸は、約433日周期で0.7秒の角度、距離にしておよそ3〜15メートルほどの不規則な変動を起こしているという。
チャンドラー・ウォブルは発見以来、変化しており、1910年には最大の振幅を記録しました。
ところが、このブレは2000年代に入ってから減少し始め、2017年には最小値を記録、2020年にかけてほぼ消失したのです。
ゾトフ氏は「チャンドラー・ウォブルの消失によって、地球の自転にかかる時間が短くなっている可能性がある」と指摘します。
ただし、チャンドラー・ウォブルの変動の仕組みはまだ明らかにされておらず、地球の自転が速まった決定的な原因とも断言できません。
ゾトフ氏は、今月1日〜5日まで開催されている「アジア・オセアニア地球科学学会(AOGS Society)」にて、この学説を発表する予定とのことです。
また地球の自転のブレについては、地球内核の回転速度が先行したり減速したり不安になっているためだという報告も以前にされています。
いずれにせよ、地球の1日の時間は私たちが思っている以上に、変動が起きやすい状態にあるのです。
世界初の「負のうるう秒」が導入される可能性も
この程度の誤差であれば、私たちの生活には何の支障もありません。
しかし、このまま地球の自転が速くなり続ければ、世界で初めて「負のうるう秒」を導入しなければならないかもしれません。
これは、ひとことで説明すると「原子時計から1秒差し引く」ということです。
原子時計の登場以降、私たちの日常生活は「原子時」によって規則正しく運行していますが、この時間は、天体観測にもとづく時刻システム「太陽時(UT1)」と足並みをそろえる必要があります。
※原子時とは、原子の振動に基づいて規定された時刻システムのこと。現在国際的に規定・管理される原子時を「国際原子時(TAI)」と呼ぶ。
そこで、タイムキーパーたちは1972年に「うるう秒」を導入しました。
原子時と太陽時に0.9秒を超える誤差が生じた際に、1秒単位で足し引きするのです。
現在世界で使われている協定世界時(UTC)は、こうした2つの時刻システムの補正によって定められています。
詳しくは、こちらを参照。
しかしこれまでの調整(計27回)で、1秒を足すことはあっても、引くことは一度もありませんでした。
それがここにきて、地球の自転が急に速まっていることで、天文時に合わせるために、原子時から1秒を差し引く必要があるかもしれないのです。
ところが、「負のうるう秒」の導入は過去に前例がないため、時刻に依存したソフトウェアやサーバーなど、世界中のITシステムをクラッシュさせる危険性が考えられます。
それゆえ、「負のうるう秒」の導入は、非常に慎重を期して判断しなければならないセンシティブな問題なのです。