驚くほど保存状態のいい頭蓋骨の化石を発掘!
モササウルスは、約7000万〜6600万年前の白亜紀末期に、北アメリカとヨーロッパ西部の海に生息していました。
注意したいのは、彼らは水棲の爬虫類であって、恐竜という括りには入りません。
ただ、恐竜が陸上の覇者であるなら、モササウルスは水中の覇者でした。
彼らは、白亜紀の最後の2500万年間に、まだ小さかった祖先から大型化し、最大で全長12メートルに達したと目されています。
大きな口に鋭く尖った歯、強靭なアゴを持っており、魚やイカ、貝類、そしてサメに至るまで、口にできるものは何でも食べたようです。
そしてついには、それ以前にプレシオサウルスやエラスモサウルスといった首長竜が占めていた”海洋の頂点捕食者”へと登りつめました。
今回の新種の化石は、アフリカ北西部にあるモロッコの発掘現場にて発見されています。
このエリアは白亜紀の終わり頃、大西洋の水面下にあり、深海から湧き出る栄養豊富な水によって、大量のプランクトンが育まれたようです。
すると今度は、そのプランクトンを目当てに小型の海洋生物が集まり、さらに、それを捕食する首長竜やモササウルスが集まりました。
その頂点に君臨したのが、新種のモササウルス「タラソティタン・アトロックス」(以下、T. アトロックス)であろうと研究チームは考えます。
新たに見つかったT. アトロックスは、驚くほどの保存状態を留めていました。
発掘では、全長1.4メートルの巨大な頭蓋骨が出土しており、口内にズラリと並んだ歯は、ずんぐりと太くて短い円錐形をしていました。
他種のモササウルスでは、細長くて鋭い歯が一般的ですが、T. アトロックスの歯は、それらよりはるかに折れにくく、頑丈だったと思われます。
頭蓋骨のサイズから、全長は9メートルに達したと推定されました。
現代のシャチよりも大きく、当時のアフリカ北部の海を一手に支配していたと考えられます。
また驚くことに、T. アトロックスの化石の周囲には、大型の魚類やウミガメ、長さ50センチ程のプレシオサウルスの頭蓋骨、さらに、少なくとも3種類のモササウルスの骨断片が散らばっていました。
これは状況証拠に過ぎませんが、研究主任のニック・ロングリッチ(Nick Longrich)氏は「これらの骨に傷跡や破損が見られることから、T. アトロックスが捕食した獲物たちの可能性が高い」と指摘します。
もしそうであれば、T. アトロックスは、首長竜や同じグループに属するモササウルスにまで手を出していたことになります。
ロングリッチ氏は、T. アトロックスについて、「実に恐るべき捕食者であり、ティラノサウルスとシャチを掛け合わせたようなものです」と評しました。
また、本研究の成果は、恐竜時代の末期にモササウルスの系統がまったく衰退していなかったことを示唆します。
これまでの研究では、約6600万年前に隕石が落ちてくる以前に、モササウルスはすでに衰退の一途をたどり始めていたと言われていました。
しかし、T. アトロックスの存在から察するに、むしろモササウルスの進化と繁栄は進んでいたと予想されます。
ロングリッチ氏は「今後もさらにやるべきことがたくさんある」と話します。
「モロッコは、白亜紀の海洋生物相の中で最も豊富かつ多様性に飛んでいます。
私たちはまだ、モササウルスの多様性と生態の奥深さについて、理解し始めたばかりなのです」