「かつて存在していた衛星が土星の輪を形成した」というシナリオ
土星は現在、タイタンを含む多くの衛星をもっています。
そして仮に追加の衛星が存在した場合、これが土星と海王星の共鳴に影響を与える可能性があります。
そこでチームは、「クリサリス(Chrysalis:サナギの意)」と名付けた架空の衛星を追加し、土星にどのような影響を与えるか何百回もシミュレーションしました。
その結果、1つのシナリオが提出されることに。その内容は以下の通りです。
かつて土星の周囲には衛星クリサリスが存在しており、土星は海王星と共鳴していました。
タイタンとも相互作用した結果、土星の自転軸は約36度に傾いていたと考えられます。
ところが約1億6000万年前、クリサリスの軌道が不安定になり、土星に急接近することに。
衛星は、主星から一定の距離(ロッシュ限界)以内に近づくと潮汐力によって崩壊してしまいます。
クリサリスもこれにもれず崩壊。
クリサリスの99%は土星に衝突しましたが、残りの1%は土星の周囲を浮遊したままであり、これが土星の輪を形成したと考えられます。
現在の観測では、土星の輪のほとんどは氷で形成されています。
この点も、クリサリスが氷で覆われていた(実際に太陽系の一部の衛星がそうであるように)と考えれば辻妻が合うというわけです。
そしてクリサリスの崩壊と衝突が、土星と海王星の共鳴を解除し、土星の自転軸の角度も現在の26.7度に変化したと考えられます。
とはいえ、390回のシミュレーションのうち、土星の輪が形成されたのは、たったの17回だけでした。
そのため、「このシナリオが実際に生じた可能性はありますが、今後似たようなイベントが生じることほぼない」と言えるようです。
ちなみに、架空の衛星「クリサリス」の名称は、名前の意味どおり「サナギ」の状態に由来します。
45億年間サナギのように殻に閉じこもっていたクリサリスは、突然、蝶のように美しい土星の輪へと「羽化」したのです。
変容を表す神秘的なシナリオですが、これが事実かどうかは、今後惑星科学者たちによって明らかにされていくでしょう。