銛のように「首を発射」して獲物を捕獲!
本研究では、ボウフラの捕食に関する10本のビデオを公開し、その解剖学的メカニズムと一連の動作について分析しています。
このうちの5本のビデオでは、「トキソリンチテス・アンボイネンシス(Toxorhynchites amboinensis)」と「プソロフォラ・シリアタ(Psorophora ciliata)」という2種の蚊の幼虫を記録しました。
この2種はいずれも、”義務的捕食者(obligate predator)”に分類され、生存と発育に他の微小昆虫を食べる必要があります。
それゆえ、2種のボウフラの生態と行動は、獲物を捕らえることに高度に発達しているのです。
他の5つのビデオは、「サベテス・シアネウス(Sabethes cyaneus)」という種に焦点を当てました。
こちらは、”条件的捕食者(facultative predator)”に分類され、基本的に微生物や藻類を食べており、必ずしも他の昆虫を捕食する必要はありません。
この2グループを比較した結果、義務的捕食者のT. アンボイネンシスとP. シリアタに、驚くべき能力が発見されました。
なんと、この2種は獲物を認識すると、目にも留まらぬスピードで頭部を発射し、アゴを大きく開いて獲物に食らいついたのです。
その一部始終がこちら。
まるで銛(もり)を発射するように透明な首が伸びているのがわかります。
ハンコック氏によると、このユニークな動きは、ボウフラがまず腹部に圧力をかけ、それを瞬間的に解放することで可能になっている、と説明します。
「この一連の動作は高度に発達しており、ほとんど反射的な動きであった」と氏は述べています。
一方、条件捕食者であるS. シアネウスには、頭を発射する解剖学的メカニズムはありませんでした。
その代わりに彼らは、柔軟な尻尾を箒(ほうき)のように使い、獲物を頭の方に掃き寄せて捕獲していました。
その様子がこちらです。
高速度カメラで撮影されているため、いずれもスローモーションで再現されていますが、実際のスピードは3種ともに、15ミリ秒程度(1ミリ秒=1000分の1秒)で獲物の捕獲を完遂していたとのことです。
ハンコック氏は「新たに得られた知見は、私たちを取り巻く自然の謎、とくに水生生物の謎を解き明かすためのツールになるでしょう」と述べています。
今回、調査対象とされたT. アンボイネンシスは、現在にいたるまで、病原菌を運ぶ他種の蚊を駆除するための道具として研究されてきました。
なぜなら、たった1匹のT. アンボイネンシスが成虫になるまでに、およそ5000匹の他種のボウフラを食べていると目されているからです。
そのゆえか、T. アンボイネンシスの成虫は、世界で最も大きな蚊の一つとして知られます。
こうした多食を可能にしているのが、”首の発射”という特異な狩りのスタイルなのでしょう。