拡散スピードが上がり、抗菌剤やブラッシングにも強くなる
「細菌」と「真菌」の違いは、かなり混乱しやすいですが、両者はまったく別のグループです。
簡単に説明しますと、細菌は、細胞の中に核をもたない「原核生物」であるのに対し、真菌は、細胞の中にDNAが膜で包まれた核をもつ「真核生物」です。
細菌には、乳酸菌や納豆菌、大腸菌などが含まれ、真菌には、胞子で増えるキノコやカビが含まれます。
これまでの研究で、細菌と真菌は、多細胞のバイオフィルム(微生物が固体表面に形成した集合体)をつくり、さまざまなヒト感染症の原因になっていることがわかっていました。
その一方で、細菌と真菌のバイオフィルムが、どのように協調・発達し、種々の病気を促進する機能を発揮しているのかは、十分に解明されていません。
そこで本研究チームは、小児患者によく見られる虫歯を対象に、リアルタイム顕微鏡とコンピュータ解析を用いて、唾液中の細菌と真菌の相互作用、および歯面上のバイオフィルム形成のダイナミクスを調査。
その結果、定住性の細菌である「ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)」が、同じく口内や皮膚にいる常在菌の酵母様真菌である「カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)」の付属肢に付着できることを発見しました。
チームが発見した”悪魔合体”のプロセスを、以下の画像をもとに見ていきましょう。
図の中の緑がS. ミュータンス(細菌)で、青がC. アルビカンス(真菌)、下の灰色部分が歯の表面です。
まず、S. ミュータンスとC. アルビカンスはヒト唾液中において合体します(1)。
次に、この結合体は、互いの結合親和性を高めながら、歯の表面に定着します(2)。
すると驚くことに、この結合体は、細菌と真菌が単独のときには持ち得なかった新たな能力を獲得していました。
たとえば、それぞれが単体でいるときよりも、容易に歯の表面に付着しやすくなっています。
それから、抗菌剤やブラッシング(歯磨き)に対してより強い耐性を示すようになっていました(3)。
最も注目すべきは、拡散能力の増大です。
S. ミュータンスは定住性であるため、基本的に自ら移動することはできませんが、C. アルビカンスは付属肢を伸ばすことで他のクラスターと手を結び、勢力を拡大することができます(4)。
S. ミュータンスは、その付属肢に”ヒッチハイク”することで、移動と増殖の能力を手に入れていたのです(5)。
この結合体は、また別の結合体とくっつき、増殖することで、歯の表面への腐食ダメージを大きくさせていました(6)。
さらに、C. アルビカンスと強調することで、S. ミュータンスの拡散速度が大幅に上がっていました。
実験によると、S. ミュータンスは、C. アルビカンスに乗ることで、1時間に40ミクロン以上の速度で移動するようになり、これは人間の体内で傷を治す分子の移動速度に匹敵するとのことです。
研究主任のジー・レン(Zhi Ren)氏は「口腔内における細菌と真菌の相互作用は、バイオフィルムの特異な構造を引き起こし、歯とエナメル質の表面に広範かつ深刻な損傷を与える」と述べています。
チームの調べた限り、このような細菌と真菌のグループレベルでの移動性を報告した先行研究はありません。
チームは、本研究の成果について、「細菌と真菌の結合を阻止する方法が見つかれば、虫歯の予防や治療に応用できるかもしれない」と述べています。
これらの菌はどちらも人間に住み着いていて結びつく状況は生じやすいようなので、予防策が見つかるまではなるべく”悪魔合体”をさせないよう、地道な歯磨きで口内を清潔に保っておく必要があるでしょう。