がん細胞は「マトリョーシカ化」して免疫療法に耐えると判明!
体の免疫能力を活性化させることで、がん細胞を殺す「免疫療法」は現在のがん治療において主流になりつつあり、がん患者たちの生存期間を大きく伸ばすことに成功しています。
しかし残念なことに免疫療法の効果は万全ではなく、多くの患者では時間経過とともに効果が失われることが判明しています。
特に治療後に再発したがんでは、その多くが免疫治療に対して強い耐性を持つことが知られていました。
しかし現在のところ、再発したがん細胞が治療に耐性を得る仕組みについては詳しくわかっていません。
そこで今回、テルアビブ大学の研究者たちは、マウスを対象にして免疫療法後に再発したがん細胞を詳しく調査し、何が起きているかを詳しく調べることにしました。
すると再発生したがん細胞の約半数が互いの内部に入り込む「細胞内細胞」を構築していることが判明します。
また細胞内細胞を詳しく観察すると、1つまたは数個の細胞核が、複数の細胞膜の層によって取り囲まれている様子が確認できました。
さらに、仲間の細胞に潜り込んだがん細胞たちは、サイズを縮小させてはいたものの、1つの細胞としての独立性を維持し続けていました。
つまり免疫療法を経験したがん細胞たちは、ある種の「マトリョーシカ化」を起こしていたのです。
(※ここでいうマトリョーシカ化は同等の機能を持つがん細胞の中に他のがん細胞が小さくなって入り込んでいるという意味を示します)
そこで研究者たちは、がん細胞の「マトリョーシカ化」と耐性獲得の間に何らかの関連があると考え、免疫細胞の殺傷効果に対する耐性を比べてみました。
結果、通常の単一のがん細胞は免疫療法によって活性化された免疫細胞によってすぐに殺されてしまった一方で、マトリョーシカ化したがん細胞はあまりダメージを受けていないことが判明します。
T細胞などの免疫細胞は主に、毒を与えることでがん細胞を破壊しますが、マトリョーシカ化して外部の細胞をバリアとすることで、内部のがん細胞は損傷を避けることができたのです。
そして免疫細胞からの攻撃の嵐が過ぎ去ると、内部のがん細胞は外に出て再び増殖していきました。
がん細胞の耐性獲得はこれまで、がん細胞に起きる遺伝的な変異が主な役割を果たすと考えられていましたが、マトリョーシカ化は仲間のがん細胞をバリアとする物理的な方法で耐性を発揮していたのです。
実際、内部に隠れていたがん細胞を捕えて遺伝子を分析したところ、免疫細胞から狙われやすいタンパク質の多くがそのまま残っていたことが確認されました。
また同様の結果は人間でも起きていることが確認できました。
研究者たちが免疫療法を受けたことがあるステージ4にある黒色腫患者の腫瘍を観察したところ、がん細胞のマトリョーシカ化がみられたのです。
一方、同じ病状で免疫療法を受けなかったがん患者では、がん細胞のマトリョーシカ化はみられませんでした。
この結果は、免疫療法に依存した治療法には残念ながら限界があることを示します。
免疫療法は私たちの体の免疫能力を活性化させることで、がん細胞の排除を目指しますが、仲間の細胞内に逃げ込んだがん細胞には、免疫細胞の攻撃は届かないからです。
では、免疫療法の未来は手詰まりなのでしょうか?