ヒアリの接種が「ワクチン」のように機能していた!
カキネハリトカゲ(以下、トカゲ)と外来種としてのヒアリの生息域は、70年ほど前から、一部で重なっていることがわかっています。
また、ヒアリの毒はトカゲに対して有害で、何度も刺されると麻痺し、死に至ることも知られていました。
それにも関わらず、積極的にヒアリを食べるトカゲの姿が頻繁に目撃されています。
この行動を不思議に思った研究チームが、”ヒアリのいる場所に住むトカゲ”と、”ヒアリのいない場所に住むトカゲ”を調べたところ、同種であるにも関わらず、異なる免疫プロファイルを持っていることがわかったのです。
そこでチームは「ヒアリを食べることで、対ヒアリ用の免疫システムを獲得しているのではないか」と仮説を立て、”ヒアリのいない場所に住むトカゲ”を対象に実験を開始。
計35匹のトカゲを、ヒアリを食べさせるグループ(17匹)と、週3回ヒアリに刺されるグループ(18匹)に分け、3週間にわたり観察しました。
その後、両グループの免疫指標が実験前とどう変わったかを総合的に評価します。
たとえば、生まれつき持っている”自然免疫系”や、感染症・ワクチンなどの異物にさらされた後に開発される”適応免疫系”を測定しました。
その結果、ヒアリを食べたグループは、ヒアリに刺されたグループに比べて、3つの免疫指標が強化されていたのです。
1つは白血球の一種である「好塩基球」の増加、もう1つは抗体やその他の免疫系を補う「補体」の増加、そして最後に、ヒアリ毒に反応することで知られる「免疫グロブリン抗体(IgM)」の増加が観察されました。
※ 補体:生体に侵入した病原体を排除するための免疫反応を媒介するタンパク質のこと
研究主任の一人であるキャサリン・タイラン(Catherine Tylan)氏は「これら3つの免疫指標の強化は、トカゲがヒアリの攻撃から生き延びるのに役立つ」と指摘。
「具体的には、ヒアリ毒に特化した抗体と補体が、毒と結びついて、生体に害を与えないようにしていると考えられる」と説明します。
そして驚くことに、ヒアリを食べたグループは、ヒアリと生息域を同じにする野生のトカゲと免疫プロファイルが類似していたのです。
「ヒアリの蔓延する地域で捕獲されたトカゲは、ヒアリのいない地域にいるトカゲに比べて、好塩基球と免疫グロブリン抗体の数値が高かった」と、タイラン氏は話します。
この点からトカゲは、ヒアリを積極的に食べることで、ヒアリ毒に特化した免疫システムを獲得している可能性が高いと結論されました。
ヒアリをパクつくことは、一種のワクチン接種のような働きをしているのかもしれません。
これにより、次にヒアリに刺されたときの重症化を防いでいるものと予想されます。
タイラン氏は、本研究の成果について、「在来種が、外来種の侵略によって根絶やしにされるのではなく、身を守るために適応し、共存できることを示している」と述べました。