ヒブナは「クローンフナ」と「キンギョ」の交雑種だった
本研究では、春採湖と網走川から、ヒブナと普通のフナ計99匹を採集。
これに加え、北海道、東北、ユーラシア大陸に分布するフナ、およびキンギョを対象にDNA解析を行いました。
今回調べられたヒブナには、3倍体が13匹、4倍体が29匹見つかり、どれも同一あるいは酷似した遺伝子型をもつことから、両倍体ともにクローン繁殖していることがわかっています。
他方で、2倍体のフナ・ヒブナは、春採湖と網走川のどちらにも見つかりませんでした。
2倍体のフナが少ない傾向は、北海道全体で共通していたようです。
次に、ミトコンドリアDNA(母親のみから受け継がれる遺伝子)を調べたところ、ヒブナには、遺伝的に大きく区別されるクローン系統が5つ以上あることが判明しています。
クローンなのに、ある程度の遺伝的な多様性をもっていたのです。
そして、春採湖および網走川のヒブナから、キンギョと同一のミトコンドリアDNA配列が見つかりました。
キンギョと同一の配列は、北海道の他のフナ集団からは見つからなかったため、1916年に春採湖に放流されたキンギョに由来すると考えられます。
以上の結果と、クローンフナ(3倍体)が稀に有性フナ(2倍体)と交雑してDNAを取り込むという先行研究、および、1916年に春採湖にキンギョが大量放流されて、それ以降にヒブナが見られ始めたという状況証拠。
チームは、これらを総合し、「北海道のヒブナは、在来のクローンフナとキンギョの交雑によって誕生した可能性が最も高い」と結論しました。
クローン繁殖をする生物は、一般に、遺伝的多様性に乏しく、「進化の袋小路に当たるのではないか」と考えられています。
しかし今回のヒブナは、クローン個体が有性種と交雑することで、遺伝的多様性を獲得している非常に興味深いケースです。
チームは今後、フナとヒブナの生態調査をさらに進めることで、クローン繁殖種がどのように多様性を獲得し、分布を広げているのかを解明したいと考えています。