頭突きではなくキックを攻撃手段にしていた?
パキケファロサウルスは一般にも名の知れた恐竜であり、テレビや映画で頭突きの再現シーンを見かけたことがあるかもしれません。
古生物学者らは何十年も前から「頭突きはメスや縄張り、食料資源をめぐって、ライバル同士が行ったものだろう」と考えてきました。
過去20年間で数人の研究者が頭突き説に異議を唱えましたが、今でもこの説は優位な位置を占めています。
というのも、丈夫な頭蓋骨は化石として残りやすいのですが、その他の骨格が状態よく保存されることがほとんどなく、他の部位について詳しい研究がされてこなかったのです。
しかし本研究チームは、米西部にある白亜紀後期の地層「ヘル・クリーク累層(Hell Creek Formation)」から、保存状態のよい「パキケファロサウルス・ワイオミンゲンシス(Pachycephalosaurus wyomingensis)」の標本を入手することに成功しました。
これにより、その他の部位の解剖学的特徴を調べられるようになったのです。
チームは、レーザースキャナーでP. ワイオミンゲンシスの3Dモデルを作成した後、脊椎骨のユニークな形状に注目しました。
研究主任のカリー・ウッドラフ(Cary Woodruff)氏は「脊椎骨の先端がラッフル(ひだ飾り)状になっており、まるでポテトチップスを2つずつ並べたような形をしていた」と表現します。
また、左右2列に並んだこれらの先端は「湾曲したポテトチップスがきれいに重なり合うようにピッタリ一致した」と指摘します。
頭突き説に従うなら、このラッフル状の脊椎骨は、高速で激しい頭突きの衝撃を分散するのに役立っているのではないかと予想できます。
ところが、ビッグホーン(オオツノヒツジ)やジャコウウシ、バイソン、オオツノジカなど、現代の頭突き動物の骨格を調べてみても、ラッフル状の脊椎骨は存在しませんでした。
しかし驚くことに、これと同じ形状の脊椎骨をカンガルーが持っていたのです。
この結果は「パキケファロサウルスがカンガルーのように尻尾を支柱として使っていた」という、1970年代に一度指摘されていた仮説を再び支持するものです。
カンガルーはご存知のように、丈夫な尻尾をつっかえ棒にして全身を支え、強烈な蹴りを繰り出します。
つまり、ラッフル状の脊椎骨がポテトチップスのように重なるのは、頭突きの衝撃の分散ではなく、尻尾で体を支える力を増幅するためだったと考えられるのです。
またP. ワイオミンゲンシスは、脊椎骨だけでなく骨盤や尻尾でもカンガルーと共通する特徴を持っていました。
では、パキケファロサウルスは頭突きをまったくしなかったのでしょうか?
これについて、ウッドラフ氏は「高速で突進して激しく頭をぶつけ合うことはなかっただろう」と考えます。
頑丈な頭骨を持っていたので頭突きを使うことはあったでしょうが、脊椎骨が突進型の激しい頭突きに特化したものではないため、低速で押し合うようなものだったと予想されます。
「もし彼らが頭を使って戦うとしたら、それは”押し相撲”であって、決して”馬上槍試合”ではなかっただろう」とウッドラフ氏は指摘します。
よってパキケファロサウルスは、頭突きよりも蹴りを多用するタイプのファイターだったと考えるのが妥当のようです。