どんな気体でも玉虫色に可視化し識別できる超簡易な装置を開発!
私たちは常に空気に囲まれて生きていながら、塩素など一部の気体を除いて、気体を視認することはできません。
これは、多くの気体が無色透明であることに加え、気体の屈折率がどれも似たような値をもつため、人間に認識可能な光の屈折が起こらないことに起因します。
気体の流れを可視化する方法として、赤外線カメラを用いた温度変化にもとづく方法や、微粒子を気体に放出することで気流を可視化する方法、化学物質との相互作用による発光現象を利用する方法などが提案されています。
しかしこれらの方法は高価な機材の準備が必要であったり、観測対象とする気体を他の物質(微粒子や化学物質)で汚染しなければなりませんでした。
一方、気体の可視化は基礎研究のみならず応用分野でも重要な課題です。
そのため、もし目の前の容器に封入されている気体を簡易に可視化し、その種類までも即座に特定できる技術があれば、人類科学に与える貢献は計り知れないものとなるでしょう。
そこで今回、国立研究開発法人物質・材料研究機構の研究者たちは気体の粘度や密度といった、気体ごとに違う物性に着目することにしました。
ヘリウム、窒素、二酸化炭素などの気体はどれも一概に無色透明であり屈折率の差もほとんどありません。
しかし気体を構成する元素が違えば、気体の粘度や密度は大きく異なってきます。
そのためもし、接触した気体の粘度や密度の違いに応じて色を変化する材料を開発できれば、気体を流すだけで、気体の種類を即座に特定することも可能になるはずです。
問題は、そのような都合のいい材料が存在するかです。
接触した気体の粘度や密度といった物理的な特性を色の違いに変換するには、接触する材料にも、気体の物理的な力に応じて発色をリアルタイムに変化させる能力が必要です。
そこで研究者たちが着目したのが「構造色」の概念でした。
通常の色は特定の色(たとえば赤)だけを反射する性質をもつため、色がつきます。
一方、構造色を発する材料はそもそも特定の色が存在せず、表面などに可視光の波長と同じくらいの幅(およそ400nmから800nm)で規則的なシワなどの構造が繰り返されているだけとなっています。
このような構造色が採用されている材料としてCDやDVDなどが知られており、角度によって色がことなってみえます。
しかし逆を言えば、みる角度が一定ならば、構造色のシワの角度が色を決める大きな要因となります。
この構造色の原理を利用するため研究者たちは、シリコンの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を薄い板状にしたものを用意し、図のように片面だけをプラズマ処理によって硬化させたものを、ガラス基板に向かい合うように設置し、外側だけを接着しました。
この装置の内部に向けて気体を流し込むと、上の図のように、柔軟なポリジメチルシロキサンは山型に変形します。
このとき、プラズマ処理され硬化した部分の表面には、歪みに応じて引き延ばされる部分と縮む部分が発生し、可視光の波長域と同程度範囲内で微細なシワシワ(380nm~780nm)がうまれ、構造色を発するようになります。
流し込む気体の流量が一定の場合、ポリジメチルシロキサンの歪み度合いを決め、構造色パターンに影響を与える要因は、気体固有の粘度と密度になります。
そのため事前にさまざまな気体を一定の流量で流し込み、気体独自の色を把握しておくことができれば、未知の気体の種類を色から判別することが可能になります。
実験では、ヘリウム・ネオン・窒素・アルゴン・二酸化炭素・キセノンを一定流量で流した場合に装置が発する構造色の特徴が記録され、気体ごとに独自の色を発することが示されています。
一方、逆に気体の種類(粘土と密度)がわかっている場合、色の変化を調べることで流量計として使うことも可能になります。
この装置は内部を通過させるだけなので基本的にどんな気体に対しても使用でき、色にかんするデータベースが充実してくれば、さまざまな気体の種類や流量の判別が可能です。
そのため極めて簡易かつ万能な計測器となるでしょう。
研究者たちは将来的に機械学習などと組み合わせることで、色のパターンから気体の種類や流量を迅速に決定する仕組みも構築できると述べています。