アンキロサウルスは「脇腹の破壊者」だったのかも
アーバー氏は、いくつかのズールの化石や、アンキロサウルスと同じ鎧竜類で尻尾に武器を持たない「ノドサウルス」を長年調査してきました。
その結果、ズールを含むアンキロサウルス科の恐竜が、「尻尾のハンマーを主に種内競争に用いていた」と考えらえる証拠をいくつか発見したのです。
自分の武器を用いた種内競争は、現在の動物の間でもよく見られます。
同様にアンキロサウルスが振り回した武器は、「捕食者のすね」というよりも、「同種個体の脇腹」を直撃していたというのです。
まずアーバー氏は、アンキロサウルスのハンマーの化石を測定し、そのハンマーが生み出す打撃力を推定しました。
その結果、20cmほどの小さいハンマーの打撃では、捕食者から身を守るのに不十分だと分かりました。
もちろん、もっと大きなハンマーをもつアンキロサウルスも存在(あるズールのハンマーは36cm)しますが、個体差や種族ごとの違い(大きさや形状)を考慮すると、アンキロサウルスの尻尾がすべて「捕食者撃退用」だったとは考えにくいのです。
そして研究を続ける中で、アーバー氏は脇腹の両側に骨折や損傷の跡をもつズールの化石を入手してきました。
また統計によると、「このような傷は体中にランダムにあるのではなく、腰まわりの側面に限られている」とのこと。
ちなみに、尻尾に武器がないノドサウルスには、アンキロサウルスにみられる脇腹の損傷は発見できませんでした。
同じく重要な点として、現段階では、脇腹に損傷をもつズールの体のどこにも、捕食者が付けたような噛み跡・刺し傷は見つかっていません。
アーバー氏ら研究チームは、これらの情報を総合して、アンキロサウルスが「すねの破壊者」ではなく、「仲間の脇腹の破壊者」だった可能性が高いと結論付けました。
もちろん、アンキロサウルスのハンマーは捕食者になりふり構わず抵抗するときにも使用されていたと思われます。
それでもやはり主な用途は種内競争だったようです。
今回の発見は、研究チームが述べているように、「アンキロサウルスが社会的に複雑で、行動的にも魅力的な生き物だった」ことを明らかにしました。