ヒト型ロボで「固体から液体へ」の位相変化を実演!
ハードロボットは頑丈ではあるが柔軟性に欠け、ソフトロボットは柔軟ではあるが頑丈さに欠けるという問題があります。
そこで研究主任のパン・チェンフォン(Pan Chengfeng)氏は「ロボットに固体と液体の位相を切り替える能力を与えることで、状況に見合ったより多くの機能を持たせられるのではないか」と考えました。
このアイデアを実現させるため、研究チームは「ガリウム」という非常に低い融点を持つ金属を使用。
ガリウムは約29.4℃で固体から液体に変化します。
チームは、液体状のガリウムに鉄、ホウ素、ネオジムからなる「磁性粒子」を混ぜ込み、自然冷却して固化させました。
CMUの機械工学者であるカーメル・マジディ(Carmel Majidi)氏は、磁性粒子が担う2つの役割について説明します。
「ひとつは外部磁場による誘導電流によって加熱し、固体ガリウムを融解させて位相変化を起こすこと。
もうひとつは外部磁場への敏感な反応を利用してロボットに機動性を与え、移動能力を獲得することです」
チームは、この材料をレゴのミニフィギュア型に整形してヒト型ロボットを作成し、次のような実演動画を撮りました。
まず、ヒト型ロボを檻の中に閉じ込め、外部から与えた電磁誘導により加熱して液体化。
室温は25度に設定しており、磁場を与えて35度に加熱することで約80秒間で液体に変化します。
次に、外部磁場を操作して磁性粒子を格子の外に引っ張り出し、25度の室温による自然放熱で再固体化(約70秒)させました。
このとき、ガリウムを元の型に流し込むことでヒト型に戻ると研究者は説明しています。動画を見ても分かる通り檻の外には人形に成形し直す型が置いてあり、形状記憶のような方法でもとに戻ることは現状できていないようです。
しかし、こうして固体時には不可能だった格子のすり抜けに成功しました。
ちなみに、固体モードでは自重の約30倍の重さに耐えられ、液体時にはない高い剛性と機械的強度を発揮できるとのことです。
ただし、檻から脱出する位相変化ロボはあくまでデモンストレーションであり、より実用的な使い方は他にあります。研究チームが想定している用途のひとつは、体内から異物を取り除くといった医療分野です。
たとえば、人体が飲み込んだロボットを外部電流により誘導し、目的の患部まで送り届けます。
固体と液体を行き来できるので、狭い通路などもお手のもの。
こちらの動画では、胃の中にある異物を液体化によって取り込み、再固体化して異物を把持したまま、体外に出ていく様子が実演されています。
逆に、薬剤を持たせたロボットを患部に送り届けて液状化させ、薬をピンポイントで投与することにも使えるでしょう。
チームは他にも、人の指先では扱えない細かい部品の操作など、電子工学の分野でも応用できると考えています。
現時点でこの位相変化ロボットが、T-1000のように人類の未来を脅かすことはあり得ません。
しかし映画の設定によると、T-1000はAIコンピューター「スカイネット」により2029年に開発されています。
あと6年もあるので、そのときまでには本当にT-1000と同等の液体金属ロボが完成しているかもしれません。