アシナシイモリの進化史の「空白」を埋める存在!
現生するアシナシイモリは、一般的な両生類とは違って四肢がなく、ぬらぬらと滑らかな皮膚を持ち、ミミズのように地中に潜ることを得意とします。
目と目の間に小さな触手器官が突き出ており、これを環境センサーとして土を掘り進めていくのです。
また、歯は上アゴに2列、下アゴに1列の計3列あります。
現在は東南アジア・インド・中南米・アフリカの熱帯域に分布しています。
一方で、アシナシイモリの化石は過去に11種しか見つかっておらず、どのように進化してきたのか、カエルやイモリなどの4つ足両生類とどんな関係にあるのかが断片的にしか分かっていません。
最も古い化石は約1億8300万年前のジュラ紀前期のものですが、これまでのDNA研究により、アシナシイモリの進化的起源は約3億7000万〜2億7000万年前(石炭紀〜ペルム紀)に遡ると推定されています。
よって実際の化石記録とは少なくとも8700万年のギャップがあり、その間の進化プロセスが謎に包まれているのです。
ところが研究チームは2019年、米アリゾナ州の「化石の森国立公園」にある三畳紀の地層から、アシナシイモリの化石断片70個以上の発見に成功しました。
この地層は「チンル層」といい、約2億2000万年前の生態系を保存していることが分かっています。
化石を調べたところ、数ミリ程の小さなアゴ骨に2列の歯が見つかり、アシナシイモリの遺骸であることが特定されました。
これにより、アシナシイモリの最古の化石記録を約3700万年も更新したことになります。
チームは、この新種のアシナシイモリを”ファンキーなワーム”という意味の「ファンクスヴェルミス・ギルモレイ(Funcusvermis gilmorei)」と命名しました。
研究主任のベン・クリーグマン(Ben Kligman)氏は「顕微鏡でアシナシイモリ特有の2列の歯を見つけたときは背筋がゾクゾクしました。この化石は8700万年のギャップを埋めるものです」と述べています。
さて、研究者たちはこの発見以前、4つ足の両生類(カエル、イモリ、サンショウウオ)とアシナシイモリの間に進化的な関係性を見つけるのに苦労していました。
両グループは分類学的に「平滑両生類(Lissamphibia)」としてまとめられていますが、その中でのアシナシイモリの位置付けや、4つ足両生類との関係はよく分かっていません。
しかし、今回見つかった新種化石を分析した結果、初期のカエルやサンショウウオの化石と多くの骨格的特徴を共有しており、両グループ間に密接な進化的関係があることが示されました。
さらに新種の化石は、その後に登場したアシナシイモリの特徴に加えて、絶滅した両生類であるディッソロフス科に見られる特徴も併せ持っていたようです。
ディッソロフス科は、石炭紀後期〜ペルム紀中期にかけて存在した絶滅両生類で、4つの足を持っており、ここからカエルやイモリなどの現生両生類が進化したとする説があります。
つまり、アシナシイモリは4つ足両生類と起源を共有しつつ、そこから徐々に足をなくしていった可能性が伺えます。
一方で、新種化石には、現生のアシナシイモリが持つ「目の間の触手器官」がありませんでした。
触手は地中に穴を掘って潜るときに使われるため、現生のアシナシイモリとは違い、新種は地下に潜るのにあまり適していなかったのかもしれません。
クリーグマン氏は「これはアシナシイモリの進化の初期段階において、地下生活に関わる特徴をゆっくり獲得したことを示している」と述べています。
今回の発見は、アシナシイモリの進化史における空白を埋める上で重要な成果であり、彼らの誕生の秘密や他の4つ足両生類との関係性をより明らかにする助けとなるでしょう。