薬の投与だけでどうやって体重が減るのか?
病的な肥満症を対象とする「胃バイパス」は、持続的な体重減少や糖尿病の寛解をもたらす外科手術です。
具体的には、胃を上部の小さな袋と下部の大きな袋に分け、さらに小腸のルートを変える(バイパス)ことで消化吸収を阻害します。
一方で、胃バイパスは術後の合併症などリスクを伴い、誰もが気楽に受けられる手術ではありません。
肥満症や糖尿病はすでに世界中の何億もの人々が患っており、安全かつ利用しやすい代替案が必要とされていました。
そこで考案されたのが、投与するだけで胃バイパスと同じ持続的な効果が得られる治療薬の開発です。
この治療薬は、胃バイパスの術後に生じる「腸内のホルモン分泌量の変化」を再現することを目的としています。
そのホルモンとは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)やペプチドYY(PYY)であり、これらは脳に満腹を知らせて食欲を抑え、血糖値を正常化させる働きがあります。

この仕組みに再現し、すでにアメリカ食品医薬品局(FDA)から肥満治療薬として承認されているのが「リラグルチド(liraglutide)」です。
リラグルチドは、脳と膵臓にあるGLP-1の細胞受容体を活性化し、減量や糖尿病の治療で大きな成功を収めています。
しかしリラグルチドには、低血糖や胃腸障害、味覚・角膜障害といった深刻な副作用が多く、ドイル氏いわく「リラグルチドを使い始めた人の8〜9割は1年以内に使わなくなる」という。
そこでドイル氏とロス氏はこの欠点を克服すべく、1種類以上の腸内ホルモン受容体に働きかける別の治療薬を開発しました。
つまり、リラグルチドのようにGLP-1受容体のみを対象とするのではなく、GLP-1受容体と2つのPYY受容体を活性化する化合物を作製したのです。
この新たな化合物は「GEP44」と命名されました。
では、GEP44にはどれほどの効果があるのでしょうか?