信頼性の低い「現実の自白剤」たち
他にも自白剤は存在しています。
例えば、「スコポラミン」と呼ばれる神経伝達物質を阻害する薬も、自白剤と呼ばれてきました。
ヒトを対象としたスコポラミン投与試験では、記憶障害や認知障害を引き起こすことが確認されています。
そのため「自白させると同時にその記憶を曖昧にし、目覚めた後に自分が何を言ったのか覚えていない」という効果が期待されました。
ただし結局、認知機能が低下した人が正確な情報を提供できるかは疑問のままです。
また「アモバルビタール」も中枢神経全体を抑制する催眠・鎮静剤ですが、自白剤として使用されたことがあったようです。
第二次世界大戦中には兵士たちの抗不安薬として広く使用されたようですが、運動機能や認知機能に障害を与えたり、強い中毒性を持っていたりすることから利用されなくなりました。
しかも投与後に「事実とは異なる記憶を形成する」ことがあったため、悪評高い自白剤として有名です。
最後に挙げられる自白剤は、「エチルアルコール(エタノール)」です。つまりお酒ですね。
人々は、2000年前からエチルアルコールに舌を緩める効果があることを知っており、それは現在の私たちも同様です。
「お酒の席であれば、本音を引き出しやすくなる」というのは周知の事実であり、いくらか自白剤の効果が見られます。
ただし、酔っぱらったおじさんたちの「俺は昔、地元では敵なしだった」みたいな、大きく誇張された自慢話や創作話に繋がることも多く、信頼性は高くありません。
ここまで考えてみると、現実の自白剤のほとんどが役に立たないと分かります。
フィクションに登場する自白剤に近いのは、チオペンタールかもしれませんが、投与された人の言葉をすべて信頼することはできません。
実際、薬剤で意識が朦朧としている場合、投与された人は尋問者に好意的になり、「尋問者が望む内容を話す」傾向があるとも分かっています。つまり真実が話されるとは限らないのです。
そして何より現代社会では、自白剤の投与はほとんどのケースで犯罪と見なされます。
2016年の台湾では、女性に「自白剤」を飲ませて自分への好意を確かめようとした男性が逮捕され、懲役4カ月の刑を受けました。
現実での自白剤とは、麻酔薬、睡眠薬、鎮静剤、気分がハイになるアルコールや薬物などです。
しかも、それらによって誘発される言葉は真実とは限らず、大きな副作用が生じるケースが少なくなりません。
私たちの想像する「自白剤」は、やはり映画やドラマの中だけのものでした。
仮に、あなたが誰にも言えない秘密を抱えているとしても、自白剤を盛られてしゃべってしまうとは限らないでしょう。
安心した…