内毒素の漏出で脂肪細胞の働きが阻害される
内毒素とは、もともとはグラム陰性菌など細胞壁を形成している主成分で、これらの細菌が死んだ際に放出される毒素です。
グラム陰性菌は、私たちの腸内に当たり前に生息している細菌のため、内毒素も腸内で常に放出されていますが、正常な腸内細菌叢を持つ人なら問題になることはありません。
ただ、当然毒素なので体内へ漏れ出してしまった場合には、健康に害を及ぼす可能性があります。
研究チームは今回、内毒素がヒトの脂肪細胞の働きに及ぼす影響に着目しました。
156名のボランティアに協力してもらい、血液や脂肪細胞のサンプルを採取して、白色と褐色の2種類の脂肪細胞を分析したのです。
ちなみに参加者のうち63名は肥満と診断されており、うち26名は肥満手術(食事摂取量を制限するために胃を小さくする手術)を受けています。
白色脂肪細胞は、脂肪が蓄積する組織の大部分を占め、脂質を大量に貯蔵している場所です。
褐色脂肪細胞は、冷えた体が暖かさを必要とするときなどに、蓄えていた脂肪を取り出して分解・燃焼する働きがあります。
私たちの体は正常な状態だと、この脂質を貯蔵する白色脂肪細胞を、脂質を燃焼する褐色脂肪細胞に変換することが可能です。
この褐色化プロセスは、健康的な体重を維持する上で極めて重要であると考えられています。
ところが分析の結果、内毒素が脂肪細胞に混入すると、白色から褐色への変換機能が阻害されて、蓄積された脂肪の量を減らす能力が低下することが判明したのです。
特に肥満者で血中の内毒素レベルが高く、褐色化プロセスの阻害が起きていました。
実際に、肥満者から採取した白色脂肪細胞は、痩せ型の参加者から採取したものに比べて、褐色脂肪細胞に変化することが少なくなっています。
これを受けて、NTUの分子生物学者であるマーク・クリスチャン(Mark Christian)氏は「腸内から血中に漏れ出た内毒素は、正常な脂肪細胞の働きを阻害して、代謝活性を悪化させ、体重増加や糖尿病のリスクを上昇させる可能性がある」と指摘しました。
これまでの研究で、肥満者の腸は弾力性がなく、内側の壁が損傷しやすいため、内毒素が血中に漏れ出す確率が高くなることが分かっています。
つまり、肥満者は内毒素の漏出により、脂肪の燃焼率が大幅に低下して体重増加に拍車がかかると考えられるのです。