脚を「コンパスの軸」のように使っていた!
研究チームはまず、ハキリアリが通常どのようにして葉っぱを切り出しているかを観察することに。
実験では、本物の葉の代わりに「パラフィルム」という葉と同じ硬さのシートを使っています。
パラフィルムは無色・無毒性で、薬品を汚染することなくビーカーやフラスコの栓をするのに使われるものです。
また葉切りを促すために、パラフィルムには本物の葉っぱの液体やローズオイルなどを塗りました。
そしてハキリアリの一種(学名:Atta sexdens)を実験セット内に放して、葉切りのプロセスをカメラで記録。
するとアリは最初、パラフィルムの縁に沿って横向きになり、中央と後ろの脚を縁に固定した状態で切り出しを始めました(画像の左上)。
その後、縁にかけた脚をコンパスの軸のようにしながら弧を描くように切り進め、体が縁と垂直になったところで、今度は両方の後脚を縁にかけます(右上)。
さらにそのまま切除を続け、最後は右半身の中央と後ろの脚を軸にし、見事な半円を切り出しました(左下と右下)。
以上が通常の葉切りのプロセスでした。
これを見ると、主に後脚がコンパスの軸として働くことでキレイな半円型に切り取れることが伺えます。
そこでチームは脚の軸を失わせた状態で実験してみました。
後脚の軸を外してみると?
ここではアリが半円の90度まで切るのを待ってから、下のような紙片をそっと差し込んで、脚の軸をなくしてみました。
するとアリはそのまま葉切りを続行したものの、脚の軸がなくなったことで安定性を失い、急に半円の軌道が小さくなったのです。
さらに切り口もギザギザと雑になっていました。
これは私たちがコンパスの軸を失った状態で円を描くのとよく似ています。
その一方で、紙片を差し込んでもキレイな半円を描けるアリもいました。
つまり後脚の軸とは別に、正確な葉切りに役立っている要素があると考えられます。
そこでチームは、アリが自らの頭の位置情報を感知するのに必要な「首まわりの感覚毛」が切断方向の安定化に寄与していると仮説を立てました。
そして追加実験で、アリの感覚毛を慎重に切り落とし、さらに紙片を差し込んで足場をなくした結果、ほぼ全てのアリがキレイな半円を描けなくなったのです。
それどころか、足場をなくしただけの条件よりもひどく、切り出される形はもはや円形でなかったり、非常に小さな丸型になっていました。
以上の結果から、ハキリアリの正確無比な葉切りには「後脚の軸」と「首まわりの感覚毛」が必要不可欠であると結論されました。
コンパスのような体の使い方と頭の進む感覚が、職人ワザの秘密だったようです。