48歳のスコットランド人女性ミレーナ・カニングさんは、30歳のときに呼吸器の感染症と脳卒中により失明。8週間の昏睡状態を経験したカニングさんでしたが、目を覚ますと「あること」に気が付きます。失明したはずの目が「動くもの」には気配を感じ、「みる」ことができたのです。
娘の顔をみることはできませんが、娘のポニーテールが揺れるのを感じることができます。雨が窓越しに降っていることを感じますが、窓の向こうに何があるかはわかりません。
この不思議な現象について検証するために、カナダのウエスタン大学の研究者たちは、脳内マッピング技術 “fMRI” を用いて彼女の脳内の活動を分析しました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0028393218302045?via%3Dihub
その結果、カニングさんが非常に珍しい「リドック症候群(Riddoch syndrome)」の持ち主であることがわかりました。リドック症候群とは、盲目の人が静止しているものは見えなくても、動いているものを感知することができる状態を指します。
カニングさんは動く物体の「方向」や「サイズ」や「スピード」を感知することができます。すなわち、盲目であるにも関わらず、投げたボールや転がしたボールをキャッチすることができるのです。
カニングさんは視覚プロセスを司る後頭葉のほぼ全て、りんごサイズの脳組織を失い失明しました。しかし、これにより全ての視覚情報をシャットダウンしたわけでなく、カニングさんの脳は視覚情報の「高速道路」を失う代わりに「裏道」を発見したことが考えられます。この「裏道」こそがカニングさんに「動くもの」の映像だけをみせている可能性があるのです。
この事実は、従来の「視力」や「盲目」といった概念を揺るがすものです。研究をおこなった神経心理学者ジョディ・カルハム教授は、「カニングさんのような珍しいケースは、私たちに可能性をみせてくれます。また、このようなケースにより『視覚』と『認知機能』の関係についても大きなヒントを得ることができます」と語っています。
via: medicalxpress / translated & text by なかしー