微妙な動機付けの違いによって促進される認知機能が異なる
人は何らかの課題に取り組む際、どのような動機を与えられるかによって、注意力や記憶力などの認知機能に変化を起こす可能性があります。
例えば、「何が重要だと思いますか」などの疑問形の動機付けが与えられれば、興味や探索、長期的な記憶の形成を助ける可能性があります。
一方で「すぐ終わらせなさい」など命令形で動機付けを与えると緊急性を促し解決への注意力を高める反面、長期的な記憶形成は阻害される恐れがあります。
しかし、同じ課題に対して異なる動機を与えた場合に、意思決定や記憶、およびこれらの認知プロセスにどのような違いが出るかは不明でした。
今回、アメリカのデューク大学のアリサ氏らの研究チームは、異なるカバーストーリーを用いて動機付けに違いを設け、同じ課題に取り組んだ際、認知機能にどのような変化が起こるか調査しました。
この研究の非常に面白い点は、この調査において参加者たちに「美術品泥棒になったつもりで、絵画とその価格を記憶してください」という一風変わった課題を与えているところです。
実験に参加したのは、オンラインで募集した一般人420名です。そして参加者たちを「強盗即実行」グループと、「強盗計画中」グループの2つに分け、それぞれに異なるカバーストーリーを与えました。
「強盗即実行」グループ:「あなたは大泥棒で、現在絵画を強盗するために美術館に忍び込んでいるとイメージしてください」
「強盗計画中」グループ:「あなたは絵画を強盗するために美術館を偵察中だとイメージしてください」
こうした異なるカバーストーリー(動機)を与えた上で、実験では参加者たちに、次の2つの課題を受けてもらいました。
強化学習課題
参加者に4つのドアの1つを選び、高額な絵画を集めるゲームをプレイしてもらいます。ドアの選択は全部で100回行い、参加者は100枚の絵画とその価格を観察しました。
それぞれの部屋には、高額な絵画と低額な絵画が複数収められており、クリックするとその中の一枚だけが表示されます。また、あるドアは試行回数が増えるにつれて、表示される絵画の価格は下がる仕組みとなっています。
この実験では、ゲーム内で高額な絵画を入手できれば、実験への参加報酬が実際に増額されました。
そのためより多くの報酬を獲得するためには、高額な絵画が表示されやすい扉を、常時分析し最適な選択を繰り返していく必要があります。
記憶力テスト
ゲームプレイの翌日、参加者たちが報酬を受け取りに来た際、今回の実験では予告なしの記憶力テストも行いました。
記憶力テストでは、ゲーム内で使用された絵画100枚と前日の実験では見ていない新しい絵画75枚を見せられ、前日の実験で見たかを判断してもらいました。
もし絵画に見覚えが合った場合、彼らは記憶の確信度と、絵画の価格、そしてどの扉の中で見たかを回答します。
今回の実験で重要なのは、「強盗即実行」と「強盗計画中」グループの間でカバーストーリーだけが異なっていた点です。
参加者は、ゲームでは参加報酬が増やすため高額の絵画を探索し、記憶テストでは絵画を思い出す、同一の課題をこなしました。
さて、「強盗即実行」グループと「強盗計画中」グループの動機づけの違いによって記憶・学習に差は生じたのでしょうか。