火星にもかつて「季節」があった?
火星の表面は、地球のような地殻変動が起きないため、40億年以上も前の地質学的記録が包括的に残されています。
これは地球と違い、惑星の歴史や変遷を調べる上で大きな強みです。
そしてこれまでの調査で、約38億年前の火星は青々とした海や湖、川に覆われていたことが分かっています。
土煙ばかりが舞う今の火星とは大違いです。
さらに研究チームは今回、火星の赤道付近にあるエリシウム平原の「ゲール・クレーター」で新たな発見をしました。
直径154キロにおよぶゲール・クレーターは約38億〜35億年前に形成され、2012年から火星探査車キュリオシティにより調査が続けられています。
そんな中、キュリオシティはゲール・クレーター内で、カルシウムとマグネシウムの塩分を豊富に含む、六角形が無数に並んだ蜂の巣のような泥岩の化石記録を発見しました。
チームは地球上に見られる同じ地形から、こうしたパターンが作り出されるプロセスの解明に成功しています。
それによると最も可能性が高いのは、湿潤環境にあった泥の乾燥です。
それも一度だけでなく、湿潤期と乾燥期が何度も繰り返されることでこのパターンができるという。
湿潤と乾燥のサイクル初期では、乾いた泥がT字型の交差点のようにひび割れていくそうですが、これが何度も繰り返される中で、Y字型のひび割れが生じ、それらが無数に連なることで蜂の巣のような六角形のパターンが出来上がると説明します。
加えて、化石の中に見られた豊富な塩分は、明らかに塩分が湿潤と乾燥のサイクルの中で堆積していったことを示していました。
研究者らは、泥に浸透した塩水が乾燥期に蒸発して塩だけを残し、このプロセスが繰り返されることで次第に塩分濃度が高くなったと見ています。
最後にチームは、パターン化された化石層の厚さから、湿潤と乾燥のサイクルが少なくとも数千年から長くて数百万年は続いたと推定しました。
研究主任のウィリアム・ラパン(William Rapin)氏は「これは太古の火星(約38億〜35億年前)で地球のような規則的な気候サイクルが存在したことを示す初の具体的な証拠である」と指摘。
その上で「それ以上に重要なのは、この気候サイクルが生命の誕生につながる分子の形成を促した可能性があることだ」と述べました。
これまでの研究で、湿潤・乾燥サイクルは、単体の分子である「モノマー(単量体)」を相互に結びつけて、高分子の「ポリマー(重合体)」を形成する反応を生み出す基盤として重要であることが分かっています。
そしてポリマーの中には、生命体を構成するブロックでもある「核酸」が含まれているのです。
太古の地球では、この気候サイクルが生命の誕生に一役買ったと予想されており、これと同じ基盤が火星に存在したということは、火星でも何らかの生命が誕生していた可能性を示唆するでしょう。
今のところ火星上で生物が存在した証拠は見つかっていませんが、今回のような地形パターンの近くを探る中で、生命の痕跡が発見されるかもしれません。