ショウガの効能は知っていてもメカニズムは謎だった
ショウガはさまざまな病気の家庭薬として長い間使用されてきました
その効能は消化不良の改善、吐き気の抑制、減量、血糖値の低下、心臓病リスクの低下、抗酸化作用、抗がん特性にも及んでいます。
しかし加えてショウガにはもう1つ、免疫の過剰反応を抑える抗炎症作用があることが知られています。
炎症に代表される免疫機能は体内に侵入した異物を排除する重要な役目があります。
しかし、ときに炎症は症状を長引かせることがあります。
ハーバード大学で行われた研究でも、炎症による防衛が成功した後には、マッサージなどで炎症物質を早期に患部から流し去ることが症状の早期回復につながることが示されています。
また人間の免疫機能はしばしば健康な細胞を異物と認識して攻撃し破壊してしまう深刻なエラーを起こしてしまうことが知られており、リュウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患を引き起こします。
そのため古くからショウガの持つ抗炎症効果は、そうした症状に対しても有効であると考えられていました。
しかしショウガの持つ抗炎症効果について理解が進んでおらず、どんな仕組みでショウガが免疫細胞に干渉しているかは不明でした。
そこで今回、ミシガン大学の研究者たちはマウスと人間の被験者の両方に対してショウガの丸ごと抽出物を経口摂取してもらい、免疫機能にどんな影響が出るかを調べることにしました。
調査にあたってはまず、自己免疫疾患の一種である高リン脂質症候群(APS)または狼瘡を発症するように遺伝子操作されたマウスが用意されました。
研究者たちはこのマウスたちに対し、ショウガの丸ごと抽出物を6週間にわたり毎日、強制的に経口摂取させました。
すると白血球の一種である好中球と呼ばれる細胞において、興味深い変化が現れました。
好中球には侵入してきた病原体に対してある種の自爆攻撃(NETosis)を行う役割を担っています。
この自爆攻撃は極めて強力であり、強い炎症反応を引き起こすとともに、病原体を死滅させます。
ただ好中球の自爆攻撃は強力であるが故に、過剰に起こると周りの健康な細胞まで損傷させる自己免疫疾患を引き起こすことがあります。
今回の研究によりショウガに含まれる6‐ジンゲロールには、この好中球の自爆攻撃を抑制する効果があることが判明しました。
また6‐ジンゲロールが好中球に与える影響を追跡したところ、細胞内部で情報伝達を担うcAMPと呼ばれる化学物質の濃度を上昇させていたことが判明しました。
好中球が自爆攻撃を行うには細胞内部である種の自爆シークエンスが承認される必要がありますが、ショウガの成分によって情報伝達物質の濃度に変化が起こり、結果的に自爆シークエンスが抑えられていたのです。
時限爆弾で例えるならば、自爆スイッチを形成する回路に不正電流が流れ込み、スイッチが作動しなくなった状態と言えるでしょう。
ただマウスで観察された現象が人間でもそのまま起こるとは限りません。
そこで次に研究者たちは、人間の被験者を使った臨床試験(小規模)を行うことにしました。