薬の味の感じ方は遺伝子で変わる
アメリカのモネル化学感覚研究所が様々な人種の成人に対してイブプロフェン小児用シロップの味をどう感じるか調査した結果、ヨーロッパ系に比べ、アフリカ系の被験者は苦味や刺激を感じない傾向があることがわかりました。
また、被験者の遺伝子解析を行った結果、味の感じ方には痛みや温度を感じるTRPA1の遺伝的変異が関わっていることも明らかになりました。
TRPA1はワサビやシナモンの辛み成分や冷刺激で活性化する受容体であり、この遺伝的変異は人種によらないことが明らかになっています。
つまり、薬に対する味覚は人種に関わるものとそうでないものの両方があり、非常に複雑であることが示されたのです。
この研究はInternational Journal of Molecular Sciencesに2023年8月22日付けで掲載されています。
薬を「飲み込まない」味覚審査
調査からは味覚の違いに関するデータだけでなく、薬の味覚検査の新しい方法も得られました。
この調査では被験者が従来の味覚検査と同じ「薬を飲み干す」やり方と共に「薬を口に含ませた味を感じさせたあと吐き出す」やり方が行われましたが、味の感じ方はほとんど同じだったのです。
このことから、検査時には薬を飲み込まなくても口に含むだけで飲み込んだ状態の味を予測できることが示されました。
「薬を飲み込まなくても味の審査ができる」という新たな発見によって、薬の味に関する治験のハードルは大幅に下がります。
今回は成人の被験者のみが対象でしたが、薬を飲み込まずに味を判定できるなら、子どもによる味覚審査も行いやすくなるはずです。
この手法の確立により小児用薬の味の開発は、より実践的なものに変わるでしょう。
薬の味の感じ方は「人それぞれ」という認識が必要
モネル科学研究所の調査により味の感じ方が遺伝子によって変わり、人種だけでなく、個々人の遺伝子変異も影響することが明らかになりました。
このため、薬に対する味覚の違いは「わがまま」ではなくあたりまえにあるという前提が必要です。
今回の研究だけでは、誰にとって適切な薬の味を開発することは難しいものの、人種間の傾向を考慮することは可能かもしれません。
また「口に含むだけで味覚調査ができる」という新たな発見は今後の薬の味の研究に大きく寄与するでしょう。
子どもに飲ませるのにも苦労せず、誤飲による中毒も起こりにくい安全な薬を作るために、薬の味の研究からは今後も目が離せませんね。