精神科病棟の3人に1人は死亡を回避できた?
チームは2002年〜2012年の10年間におけるニューサウスウェールズ州の精神科病棟の大規模な入院患者データを分析し、死亡率とその死因について詳しく調査しました。
その結果、精神科病棟患者の死亡ケースは約1000件の医療ケアにつき1.12人の割合で発生していたといいます。
調査対象となった10年間で計471人の死亡者が出ており、主な死因は循環器系(心臓・血管・リンパ管)を含む身体的健康問題が全体の75%、残りの25%は自死や事故死でした。
そしてチームが死亡者の診察データを調べてみると、全死亡者のおよそ3分の1(471人中141人)は「潜在的に回避できる死亡」であったと考えられるというのです。
では研究が死亡を回避可能だったという根拠はなんなのでしょうか?
今回のデータに関しては一般病棟の死亡報告との比較が行われており、研究者は一般病棟における死亡率が低いケースが精神科病棟では高くなっている点を上げています。
グナラトネ氏いわく、精神病患者は身体的な健康問題も同時に抱えているケースが多く、その中には副作用を引き起こす薬を服用している人々が多いという。
こうした薬剤による副作用が症状を悪化させたり、早期死亡の一因になっている可能性もあります。
また身体的な健康問題を精神的な問題として処理されてしまい、適切なケアが受けられなかったケースもあると考えられます。
これらの死亡については、薬剤の改善や医療的措置の見直しで回避できる可能性があります。
また、研究では死亡者の約18%が自死によるものであり、この内の30%は回避可能だった可能性があると述べています。
これについては、入院患者の日常的な心理カウンセリングや24時間体制での監視システムを構築することで十分に予防できると考えられます。
ただ、患者はみな自由意志での診察を受けているため、何らかの問題が合った場合でも法的に行動を制御することはできません。そのため自死のケースが回避可能だったという分析は過度な判断ではないかという意見もあります。
いずれにせよ、精神的健康の問題を持つ人々は、彼らの健康に関する課題やニーズが十分に理解されず、適切にケアするのが困難な状況になることが多いようです。
ただ、現在のところ精神科病棟の患者の死亡については、あまり関心が向けられない傾向があるようです。
グナラトネ氏は「私たちのデータセットは2012年の時点で止まっているため、ここ10年間で入院中の精神病患者の死亡率や死因がどのように変化しているかは分からない」と説明しました。
そのため「国や州レベルで精神科病棟の包括的なデータが必要であり、そのデータが得られるまでは患者に最適な医療介入を実践することは困難である」と続けています。
また今回示された研究結果は、オーストラリア以外の国々にも同じように当てはまるとは限りません。
そこで本研究をきっかけに、他の国々の精神科病棟でも同様の調査が進められることが望ましいでしょう。
救えたはずの命を1人でも多く守るためにも、世界的な精神科病棟での医療システムの改善が期待されます。