トラウマ体験直後に視覚的負荷をかけて記憶の定着を妨げる
「テトリスって何?」という方はいらっしゃらないと思いますが、念のため説明をしておきましょう。
テトリスは、1984年にアレクセイ・パジトノフ(Aleksei Leonidovich Pazhitnov)によって開発された、コンピュータパズルゲームです。
プレイヤーは、落ちてくる様々な色や形のブロックを回転させて画面下部に配置し、横一列に空きスペースなく揃えることで、その列のブロックを消してスコアとさらなるプレイ時間を獲得します。
ブロックを適切な位置に配置するためには、空間的な認識と予測が必要です。
プレイヤーは、ブロックを実際に動かす前に、頭の中で動かした結果を予測するという、まさに「脳に負荷を与える」イメージの処理を行わなければならないのです。
研究者らはこの点に注目し、テトリスを使った「テトリス療法」を試すことになったのです。
研究チームは2017年、交通事故直後6時間以内の自動車事故被害者71人に「テトリス療法」を施す実験を行いました。
実験で参加者は、自分の事故をイメージしつつテトリスで遊ぶグループと、別の課題を行うグループに分けられました。
結果、テトリスをプレイしたグループの参加者は、事故から1週間後の侵入記憶が対照群に比べて少なく、より早く減少することがわかりました。
この結果は、トラウマ体験直後に視覚的負荷の高い作業を行うことで、記憶の鮮明さを減らし、曖昧にする効果があることを示唆するものです。しかしこれは、「ひどい体験をした直後にテトリスをプレイした場合の効果」に限定されます。
現実的には、トラウマ体験直後の人にゲーム機を渡し、「今こそテトリスを!」と誘うのは、適切とは言えませんよね。
そこで研究チームは、記憶がすでに定着した人にもテトリスが効果を発揮するか、確認する実験を行いました。