「脳を他に集中させることで記憶の定着を防げないか?」
トラウマ体験は、個人が極度のストレスや恐怖を感じる経験を指します。これには自然災害、事故、戦争、暴力、虐待など、身体的または心理的に影響する出来事が含まれます。
そして人生の中で何らかのトラウマ体験をすると、それを原因としてPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することあります。
その代表的な症状の一つがフラッシュバック(つらい記憶が前触れもなく強く思い出されて再体験すること)です。
フラッシュバックは、トラウマ体験に関連する不快で強烈な記憶(侵入記憶)が、極めてリアルに再体験される現象です。
そのため、PTSDの治療ではこの「侵入記憶」の対処に焦点が当てられます。
ところで、私たちの心はカメラのように出来事を即座に記憶するわけではありません。記憶の定着には一定の時間がかかるものです。
このことから、スウェーデン カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)のホームズ教授らの研究チームは、「記憶の形成中に、その作業を阻害するイメージ処理の負荷を脳に与えて集中させれば、フラッシュバックの回数を減らせるのではないか」と考えました。
彼らは、この仮説を検証するため、星座を想像したり、頭の中で複雑なパターンをつくるなどの「脳に負荷を与えるイメージ処理」を検討しました。
そして、試行錯誤の結果たどり着いたのが「テトリス」だったのです。
とはいえ、いきなりこの流れでパズルゲームの名前を出されても唐突感が否めません。なぜ研究者らは、テトリスに注目したのでしょうか?