光と光が正面衝突する環境を算出する
調査にあたってはまず、高強度レーザーがプラズマに衝突した場面が想定されました。
高強度のレーザー光が物質に衝突すると、その物質は瞬時に電離してプラスの原子核とマイナスの電子がバラバラになったプラズマ状態となります。
(※もし十分強力なレーザー銃があれば、どんな装甲であっても構成原子をプラズマ化させながら貫通することができるでしょう。これは装甲の物理的強度を無視できるという点で、装甲を熱で溶かしてしまう現実世界のヒート弾に少し似ています)
ですが研究では、プラズマ化した物質にレーザーを当て続けると、理論上、プラズマ内部の電子がレーザーによって「加速」されることが示されました。
光には質量がありませんが、運動量を持つことが知られています。
そのため宇宙で懐中電灯を使って物体を照射し続けると、光をあてられた物体はゆっくりと加速していきます。
この原理を利用したのが光学帆船であり、ある計画では光速の30%まで加速できる可能性が示されています。
プラズマ中の電子も同じように、高出力レーザーによって10ミクロン程度の助走で、ほぼ光速に近い速度まで加速されます。
ここからは少し難しくなるのですが、順を追って解説します。
まず加速された荷電粒子(電子)は、自らが変化させた電磁場と相互作用します。
マイナスの電荷を持つ電子は存在しているだけで、自分の周囲に電磁場を形成します。
そのため電子たちが高速で加速すると、周囲の電磁場と相互作用を引き起こし、結果として光子(電磁場)を放出されます。
強く加速された電子ほど、より高いエネルギーを持つ光子(電磁波)を放出します。
研究で設定された条件では、光速近くまで加速された電子からは、極めて高エネルギーのガンマ線光子が発生することが示されています。
一方、プラズマ中のイオンは電子より重く電子に追随できないため、レーザーの先端に荷電分離による電場が形成されます。
この電場は電子の一部を引き戻し、その結果後方にX線が放出されます。
このように、レーザー光がプラズマ中を進むだけで、多数のガンマ線光子とX線光子が正面衝突をする構造が自然に発生することがわかりました。
つまり「レーザー照射➔電子加速➔高エネルギー光子の放出」という過程を辿るわけです。
(※単にレーザーを正面衝突させたわけではないことがわかります)
この結果を研究者たちは「高エネルギーの光子が正面衝突する環境が自己生成される」と表現しています。
そして計算を行ったところ、このような環境で起こる光子の正面衝突では場に十分な刺激を与え、空間から電子と陽電子のペアが対生成されることが示されました。
さらにレーザー先端部に形成される電場によって、対生成された陽電子がレーザー方向に加速され、陽電子ビームになることが示されました。
これまで反物質である陽電子を使った実験を行うには、陽電子の供給が最大のネックになっていました。
しかし今回の研究では、プラズマにレーザーを発射するだけで、大量の陽電子がビームとなって出現することが示され、今後の実験における陽電子の採取源として期待されます。
また今回の技術は未来の科学技術、特にエネルギー源や新素材の開発において、革新的な影響を与えるでしょう。