高糖質食に適応した遺伝子システムを進化させていた
今回の研究では、糖代謝に関与している「膵臓」と「腎臓」に焦点を当てました。
膵臓は血糖値を下げる「インスリン」や逆に血糖値を上げる「グルカゴン」を分泌して、血糖値を調節する働きを担います。
腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として排出することで体内の水分や塩分のバランスを維持し、血圧を調節します。
そこでチームはコウモリの膵臓と腎臓の個々の細胞における遺伝子を分析しました。
その結果、オオコウモリの膵臓は昆虫食のオオクビワコウモリに比べて、血糖値を下げる働きをする「インスリン産生細胞」を多く持っていたのです。
これにより、大量の糖質を摂取しても血糖値が上がるのを防ぐことができると考えられます。
またオオコウモリの腎臓には、血液をろ過する際に流出する「電解質」を効率的に保持するための細胞も多く見られました。
電解質の保持は糖尿病と関連する高血圧を防ぐ上でとても大切な働きです。
糖尿病のような高血糖状態になると、血管内の糖濃度が上昇し、血管外との濃度差が生じます。
体はその濃度差のバランスを取るために、細胞から水分を引き出して血管内に取り入れようとします。こうした血液量の増加が血圧の上昇につながるのです。
すると今度は逆に、血管内の水分量が増えすぎてしまうため、体は増加した水分を排出しようとして尿の回数を増やします。
多尿は糖尿病によく見られる症状ですが、この際に血圧の低下にとって重要なカリウムなどの電解質が尿と一緒に失われてしまうのです。
オオコウモリはこの電解質をうまく補足することで、血圧のバランスを取っていたようです。
オオクビワコウモリにはこうした特徴はありませんでしたが、逆にタンパク質を効率よく分解して吸収するための細胞が多く、昆虫食に特化したシステムを備えていました。
糖尿病の治療法の開発に役立つ
以上の結果から、オオコウモリにはどれだけ甘いものを食べても、血糖値をコントロールして、糖尿病を防ぐことのできる遺伝子システムが備わっていることが分かりました。
こうした高糖質食に適応したオオコウモリの研究は、糖尿病の新たな治療法を開発する上で役に立つとチームは指摘します。
チームは現在、オオコウモリの高糖質食を可能にする臓器細胞のDNA配列を決定し、それをマウスに組み込む研究に着手しています。
これによってマウスが血糖値を効率的に下げられるようになれば、人間にも適応できる治療法が見つかるかもしれません。