史上最古の皮膚を発見!今日のワニに似ている
古生物の化石はこれまで膨大な数が見つかっていますが、歯や骨に比べると軟組織の化石はきわめて稀です。
皮膚や筋肉、臓器などは死の直後から急速に分解が始まり、化石化する前にきれいに消失してしまいます。
しかし条件さえ整っていれば、軟組織が化石化することも可能です。
アメリカ中南部オクラホマ州にある化石産地・リチャーズスパー(Richards Spur)の鍾乳洞は、まさにその条件が整った場所でした。
鍾乳洞の内部にある堆積物は異様に柔らかくて粒子も細かく、そこに埋もれた軟組織は酸素のない状態で密閉されたような形に置かれます。
こうした無酸素状態では微生物がほとんど生存できないので、軟組織の分解が抑制されます。
さらにリチャーズスパーの鍾乳洞はペルム紀(約2億9900万〜2億5100万年前)に石油のしみ出しが活発でした。
この石油に浸されたことも軟組織の化石化に役立ったと思われます。
そして2018年に、鍾乳洞の奥深くで発掘された岩に皮膚の化石が発見されました。
見つかった部分は人の爪ほどの小ささしかありませんでしたが、顕微鏡分析の結果、この皮膚には外側の「表皮層」だけでなく、表皮の下にあって皮膚組織の大部分を占める「真皮層」まで保存されていました。
地層年代から皮膚化石は約2億9000万年前の古生代ペルム紀のものと判明し、これまでに見つかった最も古い皮膚となっています。
研究主任で古生物学者のイーサン・ムーニー(Ethan Mooney)氏は「見つかったも化石が予想していたものと全く違っていたので、私たちは大きな衝撃を受けました」と話します。
また皮膚表面に見られる細かな模様は、現代のワニの皮膚によく似ていました。
今回の発見は、陸上生物が進化し始めたごく初期において、すでに皮膚が体の保護膜として重要な役割を果たしていたことを示唆するものです。
あらゆる生命は海で誕生しましたが、デボン紀(約4億1600万〜3億5920万年前)において両生類が陸上に進出し、そこから爬虫類や哺乳類などの四肢動物が進化しました。
それまでの水中環境とは違い、陸上では紫外線や汚染物質、障害物がダイレクトに体へと当たるため、原始的な四肢動物は体表面の防護策を必要としました。
その中で今回の皮膚化石は、約3億年前には保護膜として十分に精巧な皮膚が進化していたことを示す証拠となるものです。
皮膚の持ち主は一体?
しかし残念ながら、この皮膚の持ち主がどんな生物だったかは判明していません。
ただ研究者らは、ワニのような皮膚模様から小さなトカゲ様生物だったと推測しており、既知種であるとすれば、最も可能性が高いのは「カプトリヌス(Captorhinus)」という絶滅生物だと述べています。
カプトリヌスはペルム紀に存在した爬虫類の一種で、実際にリチャーズスパーで骨化石も発見されています。
この皮膚化石はまた、その後に登場する”哺乳類の毛包”や”鳥類の羽毛”の進化の理解を深める上でも貴重な試料となります。
哺乳類は約2億2500万年前に、鳥類は約1億5000万年前に化石記録に登場しています。
3億年前のワニのような皮膚から、哺乳類や鳥類に特有の柔らかい皮膚がどのように発達したのか?
その謎を解明する大きなヒントが今回の皮膚化石に隠されているかもしれません。