人間の普遍的な感情は何か
感情は人間の行動や思考に大きな影響を与えます。
感情の中心的な要素を明らかにすることは、他者への共感や自己理解の促進に寄与することが考えられます。
それゆえ今までの言語学や心理学の分野では、感情を表現する表情や単語の意味に関する研究が多く行われてきました。
普遍的な感情の存在を最初に提唱したのは「進化論」で有名なチャールズ・ダーウィン氏(Charles Darwin)です。
ダーウィン氏は、オラウータンや息子の感情表現を観察し、悲しみ、幸福、怒り、軽蔑、恐怖そして驚きの7つが、人間の基本的感情であると述べています。
そして1970年代に入ると、ポール・エクマン氏(Paul Ekman)が、他の文化と隔絶されているパプアニューギニアの部族民に異文化の人の表情を映した写真を見せ、どの表情が正確に読み取ることができるかを検討しました。
結果、怒り、嫌悪、恐れ、喜び、悲しみそして驚きが文化の違いを問わず読み取れたことから、これらの感情が全人類に普遍的な基本感情であると主張しました。
後にこれらの感情に、恥や困惑、誇りなどの感情も追加されていきます。
また近年の研究では感情を27の枠組みに分類できることを報告しており、感情には多様で豊かな背景が存在することを示しています。
このようにこれまでの研究は、感情の基本的な要素を拡張することで説明を試みてきました。
しかし東京理科大学の池口徹氏らの研究チームは、この方向性とは逆を行き、言語のcolexificationに着目し、人間の感情表現における中心となる感情を特定することを試みました。
Colexificationとは1つの単語が複数の概念の意味を持っている現象を意味します。
たとえば英語の「light」であれば「光・光源」のほかに「(物理的な重さが)軽い」という意味もあります。
日本語の例を挙げるなら「首」があるでしょう。
首は「頭」や「頭と体をつなぐ細い部分」という身体の部位を示す以外に、「罷免・解雇」という仕事を失う意味を持っています。
彼らは、このようなcolexificationに注目することで、その言語が概念をどのように捉え表現しているかを明らかにすることができるのではと考えたのです。